人温

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人温

 空はどんより曇り空。  傘を差すほどではないけど、ポツポツとした雫が顔にあたる。  駅までの道はわりと遠い。  それまでに本降りにならなければいいなと思いながら、歩道橋を二人で歩いていく。  佐々木君は興奮気味に、トレードショーの楽しさを語っていた。  少しずつ雨が強まる。  急がなきゃ、と思っていたら、途端にザッと降り出した。 「佐々木君、走ろう」  私が言うと、彼はスーツのジャケットを脱ぎ、私の頭にそれをかぶせた。 「男臭いですけど、我慢してください。行きましょう!」  私は混乱しながら、自分が守られている気持ちになる。  この人温のアンブレラは何? 温かくて重みがあり、匂いのオプション付き。恋をするわけではないけど、そんな錯覚をしてもおかしくはない。  そのまま駅に着き、電車を待つ間も、私は肩から彼のジャケットを羽織っていた。  トレードショーは2月。彼はワイシャツが濡れて寒いはずなのに、走って暑いと言わんばかりに手でうちわをして気遣わせない配慮をしている。
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