佐々木君

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佐々木君

「ちなみに俺、昨日カノジョと別れました。新しいスタートはいつでも切れます」  佐々木君の言葉が私に向いている。これの意図するものは何だろう?  頭の中が自分に都合のいいように変換される。  だけどありえない。佐々木君のような出来た子が、私に興味をもつはずがない。 「俺、必ずバイヤーになって、大成します。先輩には、それを見ててほしい。報告書は手伝わせてください。きっと二人でやった方が良いものに仕上がります。スノームーンには、分析や実務って意味もあるんです」  つまり、月を見ながら二人で過ごそうという誘いだろうか。  電車の窓を叩く雨の音。  終わりそうにないしがらみだと思っていた私の恋愛。  それも間もなく明ける。  私は生まれて初めてぐらいに、雨上がりが待ち遠しくなった。  明るい太陽が射すわけじゃないけど、雨上がりの月光は太陽よりも眩しいだろう。  佐々木君と今夜一緒に過ごせたら、私も新しくなれそうで、それもきっと雨上がりの気分。  だけど、本当の天気とは裏腹に、私の心には爽快な風が吹いていた。  ミント味の飴玉のせいだろうか。  それとも、人温のアンブレラに酔ってしまったせいだろうか。  佐々木君の笑顔は、私の中に恋の到来を感じさせる。  満月の日が最良の日で、再スタートの日というのもイケてると思うのは、自己都合にしてもよく出来たお話だ。 〜END〜
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