トレードショー

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トレードショー

 毎年行われるスーパーマーケット・トレードショーは、食品小売業者に向けた商談展示会だ。  私は会社の指示により、後輩の佐々木君を連れ、そこに来ている。  様々な業者と名刺交換をし、話を聞いたりサンプル品をもらったり。  私の役目は売り出せる商品のアタリをつけて報告書に書くことに過ぎないのだが、後輩の佐々木君にしてみれば、私が商談を任されているようにしか見えないようだ。さも出来る女先輩について回る子犬のように目を輝かせている。  私の会社での立ち位置なんて、彼が思うほど良くはない。  でも、やはりトレードショーは楽しくて、テンションが上がるものだ。  決定権がない私でも、ある程度は商談を詰めて、自分を勘違いさせながら、一つ一つのブースでバイヤーのように振る舞うことができる。  佐々木君はサンプル品を食べたり鞄に仕舞ったり。今は初々しいけど、すぐに私なんか追い抜いていくんだろうな、という地頭の良さがある。  彼の部下になる私を想像すると、それも悪くないかな、と思えるぐらい出来た子だ。  トレードショーを経験させろという社長からの指示も、彼が将来的に見込まれている証。  幹部になるのが確定している後輩に、先輩風を吹かせられる時間は長くないかもしれない。  トレードショーの終了時刻は混むからと、少し早めに会場を出た。
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