こころ、売ります。五百円

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『三百円に値下げできませんか?』  こころを出品してすぐコメントが来た。正直イラッときた。こっちは、五百円という良心的価格で売ってるのに。しかし、値下げ交渉はフリマアプリの花だ。 『すみません。お値下げは考えてないです』  と返信してスマホを横に置いた。そのままごろんと床に寝っ転がる。ゲームでもしようと携帯ゲーム機を手に取る。  子供の頃から遊んだアクションゲームの新作。あの頃は学校から帰ってすぐに寝るまで夢中で遊んで、休みの日なんか一日中遊んでた。大人になった今では、休みの日にしか遊ぶことはできない。  まいっちゃうよな。二十も半ばを過ぎると集中力が維持できなくて、凡ミスをしたり、難しい盤面になると体がついていけなくて何度も失敗してしまう。  で、で、でで、でーん♪ 「あーくそ死んだ! くっそー! あと一回!」  本日何度目か分からないゲームオーバー画面になり、手汗でべとべとの親指でコンティニューを選択した瞬間、スマホに電話がかかってきた。携帯ゲーム機を机の上に戻しスマホを手に取って 「はい、はい。申し訳ありません。はい、かしこまりました。はい、はい。今行きます!」  通話を終了するやいなや、大急ぎでスーツに着替える。チクショー休日出勤だ! スマホでバスの時刻表を調べた。あと十分でバスが来る。今すぐ家を出れば間に合うだろう。  走ってバス停に向かう。息を切らしながら、来たばかりのバスに乗り込むとICカードを機械にタッチした。そしてそのまま、もたれかかるように座席に座った。  スマホでフリマアプリを開く。まだ、こころは売れていない。コメントも先ほどの値下げ交渉以外来ていなかった。
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