4人が本棚に入れています
本棚に追加
「ゲーム?どんなゲームだ」
「別に。単なる殺し合いだよ」女は複眼をこちらに向けた。
ベールの隙間から触覚がちらほら見え隠れしている。
「殺し合い。誰とだ?お前らの仲間か?それとも人間か?」
カゲの脳裏に若い日の記憶が甦った。
首輪をつけられ殺し合う血みどろの闘いを何度も繰り返してきた。
勝たなければ殺される。
裕福な家に生まれたが、捨てられ、闘剣士として売られた。
15、6歳のカゲにとっては、身体ほどもある大きな剣をふるって、
人を薙ぎ倒していた。
「お前にとっては我らの仲間とやり合う方が気が楽か?」
「別に。たいして変わらない」
「ふうん」カマキリの女は面白そうにカゲを眺めると
触覚を伸ばして上から下までじっくりとなめまわした。
やがて顔を使づけると、
「気味が悪い外見だが、ヒトの中では美しいほうなのかもしれないね」
女の眼の中に無数のカゲが映っている。
カゲは、何を見ているかもわからぬ木の穴のような己の目を見つめた。
「お前の目は我らの眼とよく似ている。ただ本能だけがそこにある。
今まで出会った人は、みな、恐怖や絶望や希望としたつまらぬ感情が
あふれていた。だが、お前にはなにもない。生きていくために
補食するのみだ。絶望すらない」
カゲは、「絶望すらない」とくり返した。
そうかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!