始まりの町 バース 1

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カサ、カサ、カサ。 遠くのほうから、何かをひきずるような、ひっかくような音が聞こえた。 その音は、徐々に近づいてくると、部屋の前で止まった。 キイィ。嫌な音をたてて、扉が開いた。 そこに、あの女よりも、一回り以上、大きなカマキリがいた。 カマキリに似た化け物といったほうがいい。 女と違って、全身は鉛色の硬い殻で覆われている。 鈍色の金属のようにも見える。 おぞましいほど、殻の上にびっしり生えた絨毛。 顔はところどころひび割れ、カマは女のものより大きく鋭かった。 その姿を見て、女が「主様」と小さく叫んで立ち上がった。 その瞬間、化け物は躊躇なく、その鉛色のカマで女の胴体を搔き切った。 「ヒィッ」と笛がなるような音が聞こえて、女の身体が真っ二つになった。 切られたあとも、女の身体は小さく動いていた。その眼は 「なぜ」と問いかけているように見える。 二つに割れた女の身体から緑色の体液が流れ出ていく。 ほんの少し前まで言葉を話し、息をしていた女は 次第にただのモノへと変容していく。 カゲは微動だにせず、その様子を眺めていた。 「なぜ、わしを怖れぬ」 カゲは黙ったまま、主の眼に視線をやった。 「その目、見覚えがある。凪いだ海のような目だ。 ああ、そうか。お前がカゲか。何年も前に死んだと聞いていたが 生きていたとはな。面白い。まさか、こんなところで、 本物の死神に会えるとは思っていなかった」 「なぜ、殺した」カゲが低い声で問うた。なんの感情もこもらない 水が流れるような口調だった。 「理由はない。ここは生命の町、バースだ。生命は円環をなす。 個々の生命に理由などない。いずれ、お前にもその意味が分かるだろう。 ゲームは明日だ。お前に会えて光栄だ」
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