始まりの町 バース 1

7/17
前へ
/43ページ
次へ
カゲは独房の冷たい床に片膝を立てて座っていた。 ところどころ岩がむき出しになった壁から、冷気が背中に伝わってくる。 主と別れたあと、先ほどまで女といた部屋に戻されるのかと 予想していたが甘かった。 これでは、まるで極刑を待つ極悪人のようだと嗤いがこみあげてきた。 それにしても腹が減った。 グアヤキルで男を殺してパンを食ったあとは、何も食べていない。 空腹には慣れているが、明日の殺し合いを思えば、何か腹に入れておいたほうがいい。 カゲは目を閉じて、耳をすませた。 小動物が理想的だが、虫でもかまわない。 何か生き物はいないのか。 天井のほうから、かすかに生き物の気配がする。 カゲは暗闇の中、瞳を凝らした。 斜め右上に、空気の通気口があった。 幸い、そこまでの高さは三メートルもない。 何もいないかもしれないが、試してみる価値はある。 カゲは、腰にさしていた大剣を土壁に突き立てると、 その上に足をかけて、音を立てないように、そっと中を覗きこんだ。 鼠だ。 悟った瞬間、カゲは片手で通気口のへりをつかんだまま 足元の大剣を抜き去り、中の鼠を刺した。 まるまると太った一匹を仕留めると、通気口の中から引きずり出した。 こいつが今日の飯だ。 残りの鼠がキーキーと嫌な鳴き声をあげて逃げ去っていった。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加