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夜々香と雷雨
森羅万象には、運命なるものが立ちはだかる。どれだけの分岐ルートを辿ろうが、通過しなければならない運命が。
代表的なものとして生死が挙げられる。生き物は皆生まれて、皆死ぬ。多少の寿命の差があれど、それは絶対的な理だ。
なら、いつ死んだって同じじゃん。約四ヶ月前の豪雨だった日、夜々香は高校受験で志望校に落ちたために、首を括って自ら命を絶とうとした。
縄だってこっそり購入した。悲劇のヒロインを演じて誰かに構ってもらおう、なんて気は微塵も無かった。本気で死のうと決意した。
それなのに、神様とは皮肉なことに都合の良い者なのだ。夜々香の許可を得ずに部屋のドアを開けた母親が、自身の首に縄を掛け、あと一歩を踏み出そうとした夜々香を目撃したのだ。
母親も幸運も、人生をどうにかして彩るために爆誕した単語だ、きっと。
だって、夜々香のメンタルが瀕死になりかけたあの日だけ、死ぬなと懇願した母親と、声を荒げた父親。これを傍から見て親子の感動物語だと拍手喝采する人々がいるなら、日本はどれだけ平和ボケしているのか一目瞭然だから。
あの日の雨が窓を叩き付ける音が、稲妻の轟きが、鼓膜にこびり付いている。
夜々香の場合は完全な失敗に終わったが。自殺未遂は、雨上がりの不安定な天気に似ている。達観して見れば空には虹が架かっていて綺麗なのかもしれない。だが、雨雲は一時的に通り過ぎただけで、また雷雨を引き連れて別の雨雲がやって来るのだ。
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