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もう一人の少女、絵麻
「あの、夜々香さん」
コノハナ会の活動を終えた直後。もう一人の少女の絵麻が、教室を後にしようとした夜々香の名を呼んだ。
「コノハナ会、ほっとしますか?」
絵麻のボブヘアーが優しく揺れる。今日で第四回となったコノハナ会だが、その終了後に絵麻は夜々香に必ず問うのだ。楽しいですか、ではなく、ほっとしますか、と。夜々香は口角を斜めに上げて笑ってみせた。
「うん。あたしは大丈夫だよ」
「なら、よかったです」
絵麻は安堵したような、そしてどこか幸福そうな表情を見せた。夜々香は知っている。この絵麻の笑みは「今日もコノハナ会に参加してくれてありがとう」から成るものだと。
夜々香の最初のコノハナ会参加理由は、自業自得と誰かが言えばその周りも頷くようなものだった。単純に、自宅で一人になることが困難になったのだ。
今度こそ自殺の計画なんてしないようにと、両親が就寝時以外は定期的に部屋を確認するようになり、一人の時間が減った。
友達という友達作りに失敗していた夜々香は、家族と一緒に過ごす以外の選択肢はなかった。それに、ぼっちで出掛ける方がよっぽど虚しい。
ここに居るのは、帰宅が遅くなる理由と自宅以外の居場所が欲しかった。それだけだった。
「呼び止めてすみません。帰りましょう」
下校時刻を告げるチャイムが学校中に鳴り渡る。少し早足で、二人は下駄箱に向かう。
絵麻が無言だったので暫くはその空気感を守っていたが、夜々香は途中で限界が来た。適当に喋りやすそうな、また夜々香が気になっていた話題を振ってみる。
「絵麻さんって、どうしてコノハナ会を創ったの?」
ふふ、と絵麻から小さな笑いが漏れた。夜々香がきょとんとしている間に、絵麻は「そうですね」と悩んでいる素振りを見せた。
「声に出そうとすると少々むず痒いものですが、誰かの思考は誰かの悩みを間接的に解決される策だと考えたので」
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