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滴る想いよ、花になれ
「あっ、雨上がっていますね」
夜々香は絵麻の声ではっと我に返る。いつの間にか下駄箱まで来ていたようで、無意識に運動靴を手にしていた。
「……で、あの続きでしたね。私って変人じゃないですか、ぶっちゃけ。高校入学前にこっちの方に越してきたんですけど、その前は言動がおかしいのを理由にいじめに近しいことをされていまして」
夜々香にとって初めてだった。一見何を考えているかわからない絵麻の気持ちを、恐らく一瞬で見透かせてしまったのは。
「ですが、中学校にも唯一、私を理解してくれた子がいました。私の傍で笑ってくれた、何事にも精一杯の努力家さんです」
運動靴に履き替えて外に出ると、灰色混じりの雲は彼方に旅立っていた。絵麻も傘を持ってから夜々香に追いつき、足元の水溜りを爪先で蹴った。
「私も彼女のようになりたいんです。今でも連絡を取ってはすが、彼女への恩を彼女のみに返すのは何となく違うかなと感じまして。それで、コノハナ会の活動を閃いたんです」
夜々香はトロッコ問題で、運命は運命通り実行させたいと発言したが、今なら別の考えを提示出来そうだった。今更出した結論は、気分によって誕生した一秒限りの産物かもしれないが。
運命が運命通りになるのなら、天気予報は要らない。
「やっぱり、コノハナ会は誰かを助けるための会?」
「それも一つですね。あともう一つは、以前お伝えした言葉をアレンジして……直接的に誰かを救えなくても、心を救うためのワンクッションになりたかったからです」
友達だって、そこに存在したから悩みが解決するわけじゃないです。友達がいる事実から発展した結果、悩みが解決するのであって。絵麻の一言に、夜々香は肩が軽くなった感覚がした。
多分、あの日の想いが完全に通り去った。いずれ似た天気がやって来るとしても、掴み所のない勇気が夜々香の中に浮かんでいるイメージが湧いた。
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