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悔しかった。
自分の鈍感さと未熟さが許せなかった。
夕立で濡れそぼった私の体があげるしぶきは、まるで全身から流す涙だった。
私はコンビニを見つけると、男性用と女性用、それぞれの一番高いパンツを買った。
それらを両手に一個ずつ握りしめて、元来た道を引き返す。
夕立は、すでに、全力疾走しても気にならないほどに雨足を弱めている。弱めてしまっている。
待って。お願い。今すぐ行くから、間に合って。
そうしてたどり着いた街灯の下。
所在なく立つ二本の足と、体の中心で重ねられた手。
ほの白い体がまだそこにある。
よかった、間に合った。
そう思った時、夕立の最後の一粒が、地面を叩いた。
雲が晴れ、西からはか細い残照と、東の空に月が覗く。
やまない雨はない。絶対に。
だから、この日も雨上がり小僧は消えた。
街灯の下、あの足が立っていた場所に、私はぜえぜえと荒い息をつきながら、パンツを握りしめて立ち尽くしていた。
あんなに恐ろしかった雨なのに、今すぐ降り出してほしくてたまらなかった。
ぐ、うう、と自分の嗚咽が聞こえた。
翌日、今年の梅雨明けが宣言された。
■
「あーあー。今年も、この季節がやってきちゃいましたねえ」
職場の後輩の女子が、事務所で伸びをしながら言う。
「もーじめじめしてほんと嫌。去年みたいに、すぐ梅雨明けすればいいんですけど。ほんと、一念でこの時期一番嫌い。髪も死ぬし。
……って、先輩。なんだかうれしそうですね」
そう? と首をかしげる。
正直に言えば、口角が上がっている自覚はあった。
「まさか先輩、梅雨好きなんですか? そんな人います?
そういえば先輩、下着とかシャツ一揃い常にカバンに入れてるって聞いたんですけど、本当ですか?
梅雨で雨に濡れた時用とか?」
本当だよ。
私が使うためじゃないけど。
「よければ今日、ごはん行きません? ガーッと飲んで、ジメジメを吹き飛ばしましょうよ!」
ごめんね、今日はだめ。
午後から、降り始めるみたいだから。
「あー。雨の中帰るの嫌ですもんねー。でも、夕方には上がるみたいですよ?」
そうなの。
だから、雨上がりに間に合うように、あの道に行かないといけないからね。
終
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