1.梅雨なんて

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1.梅雨なんて

 朝から雨が降っていた。  うんざりしながら、道のはじっこで咲いているあじさいたちの横を通り過ぎる。  薄い紫色。くすんでいるみたい。雨に濡れた葉っぱの上では、カタツムリがもたもた動く。そういう光景が「梅雨(つゆ)ですよ」ってわざわざ伝えてくるようで、サイアクな気分。 「はああああ」  連日の雨、雨、雨。  ただでさえ、受験シーズンでテンションが落ち込みがちなのに……。やっぱり「勉強に集中するためにピアノに触らない」って決めたのがよくなかったのかな?  モヤモヤが風船みたいに膨らんでいく。 「いっそのこと」  アスファルトにヒビが入るくらい、ざあざあと降ってくれたらいいのに。  そうしたら、誰にも知られることなく大声で叫べるのに。  今、ためしにやってみようか。  せーの! 「毎日つまらない!」 「勉強なんてしたくない!」 「塾いやだ!」  そうやってこっそり吐き出したいことは山ほどあるんだから。  でも……。  わたしは顔をトマトのように真っ赤にしながら叫ぶ自分の姿を想像した。とたんに荒ぶっていた感情がスンと鎮まる。 「うん。止めよう。みっともないし、かわいくない」  気をとりなおして、子犬が描かれた透明の傘をぐるりと回す。ビニール生地(きじ)が弾いた雨の粒がぽろぽろと地面へと落ちていく。  まるで、小さな犬が涙を流しているみたい。おんなじようにわたしも泣きたい。
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