アメノヒ

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アメノヒ

「ママー、雨降ってるぅー!」 「あらあら……仕方ないわねぇ。動物園は、また今度ね」  うわーん、と苛立ち混じりの泣き声が響く。儘ならない結末に、幼い娘は床に転がって、手足をバタつかせている。しばらくの間、母親は優しく宥め賺していたが、それでも態度が変わらないと見切ると、やおらカラカラとベランダを開けた。 「てるてる坊主にお願いしてもダメだったんだから、いい加減に諦めなさい」  母親の細い手が伸びて、物干しざおに括っていたボクをぞんざいに外した。一晩中吊されていた白い身体はグッショリと濡れ、項垂れた頭からは冷や汗がポタポタと滴る。彼女はうんざりした顔でボクを握って水分を落とすと、ベランダのガラス扉を閉じた。それから室内のゴミ箱にポイと投げ捨ててリビングを出て行った。母親の不機嫌を招いたことを悟った女の子は、鼻をすすりながらノロノロと身を起こし、ゴミ箱の縁から中を覗き込んできた。両の瞳に涙をいっぱいに湛えたまま、用済みになった役立たずのボクをジッと見下していた。
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