テンセイ

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テンセイ

「もーっ。この役立たず!」  カーテンレールから外されたボクは、硬い机の上に放り投げられた。浴衣姿の女の子が恨めしげに見上げる窓の外は、雷鳴轟くどしゃ降りだ。  ……ごめんね。でも、ボクに即効性を期待するのは違うんじゃないかなぁ。ボクが作られたのは、2時間前。既に雷雲も迫っていたし、小雨も降り出していた。天気予報でも、『今夜の花火大会は中止の可能性が高いでしょう』って言っていたんでしょ? 「あーあー、せっかくのデート、だったのにぃ」  ベッドにボスンと仰向けに身を投げて、彼女はスマホをポチポチ弄り出した。綺麗に結った髪の毛は潰れ、浴衣に咲いた可愛い朝顔は着崩れて歪む。 「花火大会は……来週に順延かぁ。もう一回作るから。今度は、雨降らせないでよね!」  ガバッと起き上がると、彼女はボクに手を伸ばした。青い爪に星のデコレーションが付いた指先が、首に巻かれた赤いリボンを(ほど)く。レースの縁取りが付いた淡いピンクのハンカチを広げて、中央に丸めていたティッシュを取り除く。解体されて、“ボク”は消えた――。
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