ハレノヒ

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ハレノヒ

 ドキドキしながら帰宅を待っていたのだけれど、花火大会から戻った更紗ちゃんは、浴衣から着替えてお風呂に入ると、すぐにベッドに潜り込んで眠ってしまった。ボクの存在(こと)など、まるっと忘れてしまったみたいに。ボクは、カーテンレールで所在なく一夜を過ごした。 「おはよー、テルテル」  更紗ちゃんはカーテンを開けると、ごく自然にボクの頭をツンと突いた。わぁ、いきなり。真夏の強い光に満たされた室内と眩しい窓の外、周りの景色がクルクル回る。 「ちょっとだけ、待っててねぇ」  両手を突き上げて、うーんと大きく伸びをして。彼女は意味深な笑顔をボクに投げて、部屋を出て行った。  やがて、身体の回転がゆっくり止まる。雲ひとつない青空がいっぱいに広がっている。凄いや、今日も快晴だ。  ――あ。また、ドキドキしてきた。  だって、なにもかも初めてなんだ。  雨が止んだのも。雨上がりの空に七色のアーチがかかって、それが消えたのも。それから……頭を切り落とされることなく、2回目の朝をヒトの元で迎えたのも。  念願の、ヒトに託された願いが現実になった。けれども、この先、ボクはどうなるのだろう。どこに行くんだろう。 「テルテルぅー、お待たせぇ!」  感慨は元気な声に追いやられ、ボクは彼女の手でカーテンレールから外された。頭が掌に包まれる。そして――。  パチリ。 「ん、可愛いー」  突然、辺りの様子が鮮明に。これまでは、頭の中にぼんやりと映り込んでいた景色が、くっきり、はっきり、少しの曇りもなく。 「アンタのことベンキョーしたって言ったでしょ? 晴れにしてくれたら、お礼に顔を書いてあげるんだって」  そうなのか。  更紗ちゃんの照れ臭そうな笑顔に、フワフワと心地好い気分になる。 「それと、甘いお酒をかけてあげるらしいんだけどさぁ……」  いつの間にか、机の上に小皿が置いてあり、飴色の液体で満たされている。 「アタシ、未成年じゃない? それで、ウチにある甘いお酒って言ったら、これしか思いつかなくて」  掴まれた頭が、小皿に近付けられる。  えっ。えっ? なにこれ? ちょっと、待っ――! 「で勘弁ね」  べちゃっ。ぎゃっ。  妙に甘ったるい香りにクラクラする。淡いピンク色のハンカチとティッシュペーパーで作られたボクの身体は、その液体をみるみる吸い上げてベージュ色に染まっていく。 「やー、ベタベタぁ。えーと。それじゃ、ありがとね、テルテル」  美味しく味付けられたボクは、ビニール袋に入れられて……それ切り、意識はフツリと途切れた。 「燃えるゴミに出しちゃうの、なんか可哀想だけど……川には流せないから仕方ないよねぇ。バイバイ、テルテル」
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