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12 再びの出発
スキラー・クレスミーの本部の処理は、結局十日かかった。なんか半分くらい、私が色々したからでもあるっぽいんだけど。
と、言ってしまう理由は、私も、途中から処理に参加したからだ。証拠を隠滅するためにか、燃やされたり壊されたりした書類だとか道具だとかを、神に祈って元に戻してもらったり。そんなことをして。
そしたら、めっちゃ重要らしい顧客リストやら、伝説級の呪具やら、何重にも神の加護が付与された武器やら、世界中に散らばってるスキラー・クレスミーの動きを把握するための情報や連絡手段とかが再生できて。
「本当に潰せますよ、スキラー・クレスミーを。ですが、時間がかかりますね、この状態では。分けますかね、スキラー・クレスミー壊滅を目的にする部隊と、それを補助しつつ事後処理を続ける部隊と、ニナさんの警護部隊の三つに」
眠ったままのキリヤの代わりに、増援の指揮を執っていたキリナはそう言って、増援の人たちを大きく三つのグループに分けた。
ずっと気になってたベルズについては、妖精の力を使いすぎて自滅──死んじゃったって、聞いたけど。
死んだって聞いて、複雑では、あるけど。でも、妖精の力を使ってなかったらとっくの昔に死んでいた年齢だとも聞いたし。あの姿で生きていくために、妖精たちを何千何万と殺した筈だとも聞いたし。
色々ひっくるめて、天罰だと思うことにした。ベルズにとっても天罰だし、精霊さんたちの力をちゃんと分かってなかった私の天罰でもあるって。
今度、精霊さんたちに力を貸してもらう時があったら、もっと慎重に動こうって決めた。
「ニナのせいじゃないからな。文字通りの自滅だ」
「そうなのだぞ! ニナは皆を救ったのだ!」
「ニナさん、気に病む必要はありませんよ。ニナさんのおかげでスキラー・クレスミーは瓦解しますし、消滅に追い込めるんですから。スキラー・クレスミーの犠牲者は居なくなるということです」
ミーティオルもサロッピスも、キリナもそう言ってくれた。
けど。だからこそだ。
「同じ失敗は繰り返さないって決めたの。それが今の私に出来ることだもん」
それを心に刻んで、スキラー・クレスミーの本部から正大神殿へと、出発だ。
教皇との話し合い……真っ向勝負が待ってる。
正大神殿までは、警護についてくれてる人たちも含めた大移動になるから、順調に行っても半年かかるそうだ。
「もっと早く着かないの? キリヤは教皇の所から私達の所に、すぐに着いたんでしょ?」
って、話をされた時に聞いたけど。
「ほぼ休み無しで移動していたんでしょうね。昼夜ずっと、移動に費やしていたということです。ニナさんが同じことをしたら、正大神殿に到着するまでに倒れますよ」
キリナに説明されて、納得せざるを得なかった。
八歳なので。寝ないとか、無理です。はい。
ベルズの所で二週間、処理で十日間が経って、季節は夏の終わりに差し掛かっている。
そこから半年かかるってことは、完全に、年を越す。順調に行っても、到着は春頃だ。
そんで、私もそろそろ、九歳になる。私は秋生まれ、というか、拾われたのが秋だったので。
「うし! 正大神殿に着くまで半年あるし、教皇に対抗出来るように、修行をする! 頑張る!」
スキラー・クレスミーの本部から出発したばかりの、そんなにガッタンゴットンしない馬車の中、ミーティオルの膝の上で、気持ちを新たにした。
「俺も、もっと力を磨くよ、ニナ。ニナに何かあったら、いや、ある前に、二度とこんなことが起きないようにしたいしな」
ミーティオルが、頭を撫でながら言ってくれる。
「我も力になるのだぞ! そのためについて行くのだ!」
横にちょこんと座ってるサロッピスも、拳を振り上げて元気に言ってくれる。
「気持ちは分かりますが、前提は話し合いですからね。最初から聖女の力を行使したりしないように。お願いしますよ、ニナさん」
向かい側に座ってるキリナも、呆れた感じに言ってくるけど、キリナは味方だし。
「分かってるもん。最初は平和に行くもん。あっちの出方次第だもん」
「ですからその考えが……はぁ……」
キリナが頭を抱えた。
「やはりニナは、血気盛んで慈悲深いな」
サロッピスはうんうん頷いてる。
「ニナはニナのままでいい。それがニナの魅力で武器だと、俺は思う」
ミーティオルがなんか、すっごい嬉しいことを言ってくれる。
めっちゃ嬉しい。すごい嬉しい。これ、脈アリって思って良い?
「なんにしてもまず、旅路の安全確保ですよ。気を引き締めて下さいね、皆さん。特に、ニナさん」
ニヤけてしまったら、キリナに忠告されてしまった。
「はーい」
今も、馬車全体に五重聖域張ってるから、安全確保はそれなりに出来てると思うけど。けど、油断は命取りだもんね。
スキラー・クレスミー以外だって、私を狙ってくるし。教皇も私を狙ってる、というか、厄災だとか言って警戒してる訳だし。
それに、やっぱりというか、ミーティオルを嫌な感じの目で見てくる増援の人も居るし。だからまだ、奴隷の首輪だってしているままだ。
気合いを入れつつ、気を引き締めます。
これ以上ミーティオルに何かあったりとか、そういうのは嫌なので。
あと、ちょっと気になってるんだけど、私のもう片方の生みの親って、誰なんだろ?
男の人なのか、女の人なのか。教皇が私のことを分かってたってことは、もう片方の生みの親も把握してるだろうってキリナは言ってたけど。
まあ、なんにしても。
待ってろ、正大神殿。待ってろ、教皇。
なんで私が厄災なのか、ミーティオルをちゃんと認めてくれるのか、異教徒とか五百年戦争の話だって、色々言いたいし聞きたいからね!
◇第四章へ◇
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