6 因縁、できちゃった?

1/1
前へ
/26ページ
次へ

6 因縁、できちゃった?

「ど、どちら様……? それとここ、どこです……?」  男の人? 女の人? それも分からん。  この、銀色の草原も訳分からん。空は青いけど。 「ふむ。この髪色と瞳の色に、覚えは?」  ミーティオルくらい背の高いその人は、また、性別不明な声で、そんなことを言う。 「え? オレンジ……と、水色……私と同じですね……?」 「そうだな。まあ、今は何より、元の世界へ戻るが良い。愛しい仔が手元に来るのは嬉しいが、運命はそれを望んでいない」  どゆこと。 「お前はまだ、あの世界でやることがあるのだよ、ニナ」 「え、私の名前……?」 「知っているさ。見ていたからな。子を持つ親の感覚を、久方ぶりに味わっているぞ」  その人はそう言うと、私の頭に手を置いて。 「戻りなさい。お前が愛しく思う者が、お前の帰りを待っている」 「え? それ、ミーティオ──」  言いかけたところで、意識が、プツッと途切れた。  ◇ 「……ぅ……」 「ニナ! 目が覚めたか!」 「ミーティオル……?」  ミーティオルの顔がめっちゃ近ぁい……。 「流石、即効性って言いたいが、死にかけた原因もそれだからな……」  死にかけた……あ! 「ミーティオル! っ痛ぁ!」  う、動こうとしたら、背中に激痛が……。 「まだ動くな。背中にナイフ刺さったんだぞ。今から再生させるから」 「ナイフ……だったんだ……あれ……」  ミーティオルが背中に手を当ててくれて、なんか、そこがホワって温かい……。 「そうですよ。投げナイフです。ライカンスロープ特有のね」 「あ、キリナ……と、誰それ……」  キリナの下でもがいてる、白いライカンスロープさん……? 「あなたにナイフを投げた『ワーウルフ』ですよ、ニナさん」 「マジで……?」  危険人物じゃん。 「話を聞こうにも、訓練されてるのか、殆ど痛みに反応してくれないんですよね」 「その通りに訓練されてるんだよ。偵察部隊だって言ったろ。暗殺みたいなこともすんだよ。里の仕事だけど」  里……? 「え? 里って、ミーティオルの? 同郷のかた?」 「……そんなモンだ」  あれ、声が苦々しい。 「婚約、などと言ってましたよね」 「え?!」 「そこのところ、どうなんですか? アニモストレさん」  キリナが何かしたのか、なんか軽い音がして、アニモストレっていうライカンスロープさんが、顔を歪める。 「──ヴ、ヴヴヴ……!!」  な、なんか、アニモストレさんの周りの空気が揺らぎ始めたよ?! 蜃気楼みたいな……? おわっ?! 「キリナ離れろ! 自爆する気だ! 抑える!」  私を抱えて、飛び退ったミーティオルが言う。 「チッ。自爆は面倒です。貴重な情報源ですが、ここで始末します」  キリナが銃口を、アニモストレの後頭部に当てた、その時。 『アォーン!』  オオカミの遠吠えが、聞こえた。 『アォーン!』 『アォーン!』 『『『アォーン!』』』 「クソッ! やっぱ仲間が居た! 集まってくるぞ! キリナ! ──キリナ?!」 「キリナ!」  遠吠えに気を取られてるうちに、いつの間にかキリナのほうが、アニモストレの下敷きに?! 「あー、面倒ですね。自爆直前の能力解放で、拘束を弾き飛ばしまたか」 「……この屈辱、忘れない。キリナ、次に会ったら絶対殺す」 「今殺さないんですか?」  アニモストレは悔しそうに顔を歪めて、オオカミ姿になると、素早く屋根を飛び越えて消えていった。 「追いかけます」 「死ぬぞ! 相手はアイツだけじゃないんだ!」 「深追いはしませんよ。あなたたちは、周りで棒立ちになってる警備兵と神父に、我に返れと言って下さい」  キリナは言うと、ぴょんって屋根に登って、 「ほ、ホントに行っちゃった……」  ◇ 「キリナ、大丈夫かなぁ……」  警備兵たちと神父たちを我に返らせて、主にミーティオルが状況を説明して。  宿に戻ってきた私たちは、てか、私は、椅子に座って、窓から外を眺めてた。 「大丈夫だよ。キリナは強い。アニモストレがあそこまで一方的にやられたの、小さい頃以来だろうからな」 「婚約者……」 「だから今は違うって」  背中の傷を完全に治してもらった私は、ミーティオルからアニモストレのことも、ミーティオル自身のことも聞いた。  ライカンスロープの里の族長の息子だったミーティオルは、次期族長っていう立場で。  一歳の時に、アニモストレのお父さんの推薦で、二歳だったアニモストレと婚約した。けど、それは、立場で決められた婚約で。  しかも、アニモストレはミーティオルの性格を『軟弱な思考』だって、いつも言ってたみたい。だから、二人とも折り合いが悪くて、将来やっていけんのかって思ってたところで、里のライカンスロープの一部で、『このまま隠れ住むんじゃなく、他のライカンスロープたちと協力して人間を滅ぼして自由に生きよう』グループと、『このまま隠れ住んで、平和にひっそりと生きていきたい』グループが出来て、衝突し始めた。  ミーティオルはそれを仲裁しようとして、双方から怒りを買って、丸く収めるにはこれしかないと言われて、罪人のバツ印を付けられて、里を追放された。その時、婚約も当たり前に解消された。 「……今は違っても、また婚約の話を持ちかけられたんでしょ……」 「受けると思うか?」 「受けないでほしいです。私はミーティオルが好きなので」 「ありがとな。受けないから、大丈夫だよ」  頭に手を乗せられて、そっと、何度も撫でられる。  嬉しいけど、複雑。 「ニナ」 「なんですか」 「キリナの足音が聞こえる」 「えっ?! ほんと?! どこ?!」  窓から身を乗り出したら、「ニナ、危ない」って、抱き上げられた。 「右のほうからする。まだ少し遠いな。出迎えるか?」 「出迎える!」  ミーティオルに抱えられたまま、宿から出て、 「こっちだ」  ってミーティオルが進んでいくと。 「キリナ!」  雑踏の中に居たキリナが、私の声が聞こえてか、こっちを向いた。 「どうしたんです? 宿にいると思って、向かってたんですが」  合流できたキリナが、不審そうに聞いてくる。 「出迎えだよ。俺もだけど、ニナ、お前のこと心配してたからな」  ミーティオルの言葉に、キリナは妙な顔をして。 「そうですか。まあ、結局、成果はこれだけだと、伝えておきます」  キリナが見せてくれたのは、手のひらサイズの刃物と、紐で縛った白い毛束。……これ、投げナイフってヤツと、アニモストレの毛? 「……ナイフを仕舞ってるとこは見えてたけど、体毛、お前、いつの間に……」 「拘束してすぐですよ。逃げられた時の、物的証拠として切り取っておきました。ここの警備兵と教会にも分けてきましたから、これだけの量になってしまいましたがね」  キリナは言って、毛束を仕舞って、歩き出す。 「お前……」  ミーティオルも困ったような声を出しながら歩き出す。 「お前は神父だから、仕事としてやっただけだろうけど。それ、俺たちの間だと、セクハラだからな」 「え?! そうなの?! ……あ?! 婚約の印!」 「その文化も知ってますよ。セクハラだろうがなんだろうが、職務なので。これまでも、同じことは何回かしてきましたよ。取り逃がしたのは久しぶりですが」  淡々と言うキリナに、ミーティオルがなんか、疲れた声で。 「……キリナ、お前マジで、次にアニモストレに会った時、気を付けろよ。アニモストレの個人的標的に、お前が選ばれてるかも知れない」 「それはそれは。光栄なことで」  ◇  仲間に指摘され、そこで初めて気付いた。  首の後ろ側の毛が、切り取られていることに。  絶対に、アイツだ。あの人間。 「キリナ……許さない……」  ミーティオルを里に戻す任務は、続行される。  また、あの人間と顔を合わせる機会も、たんまりとある筈だ。 「キリナ……覚えてろ……」  ◇第三章へ◇
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加