3 フラグ回収、からのヤベェ人

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3 フラグ回収、からのヤベェ人

 これが最後の休憩、と、少しフラフラしながら馬車から下りて、またミーティオルに抱えられて、 「やっと休める……」  ずっと揺られてたからか、くらくらするぜ……。 「ニナ!」「聖域」  え、今? と思いながら聖域を展開する。 「オーガだ!」  警護の人が、そう叫んだ。 「え、オーガ?」  キリナから聞いてたけど、本当に存在するんだ? オーガ。  その言葉に目を丸くしてる間に、ぞろぞろと。  馬に乗っていたり、そのまま走っていたり。頭に角が生えた、オーガだというそんな奴らが、辻馬車を中心に乗客、御者、護衛全員を含めて周りを取り囲んでいく。 「……どう思います? ミーティオルさん」  キリナが、声を潜めながら聞いてきた。  ミーティオルは、小さいけど唸るような声で、 「オーガじゃない。人間だ。あいつ等、オーガの皮を被ってる」  え? なにそれ、グロ。  馬に乗ってる人も、立って剣を構えてる人も、当たり前のように角があって、派手なお面を付けて顔を隠して、どこかの民族衣装みたいな服を着てるけど。  これ、グロい変装なの? 「我らは! 誇りた──」  馬に乗った、一際(ひときわ)派手な格好の一人が抜き身の剣を振り上げて、なんか言い始める。けどもう、キリナはその人に照準を定めていて、喋り始めたばっかだけど、遠慮なくぶっ放した。  その人は、大砲型の銃の威力のせいでか、ふっ飛ばされるようにして、乗っている馬から転げ落ちる。 「普通の弾が効きましたね。やはり人間ですか」  キリナは呟いて、 「皆さん! 彼らはオーガじゃない! 人間です! オーガに変装しています!」  大声で言いながら、馬に乗っている人たちを次々に撃ち落としていく。陣形を崩されたオーガに扮した人間たちは、素早くそれを立て直して、近くの人たちに斬りかかった。警護の人が攻撃を防ぎ、ガキンガキンと、あちこちで剣のぶつかり合いが始まる。 「ミーティオルさん」 「ああ」  短いやり取りのあと、キリナはオーガに扮した人間たちに向かっていった。  聖域から抜け出たキリナへ、神様! キリナを守って下さい! と祈ってから。 「ミーティオル。私たちは待機?」 「そうだ。ニナの特別な聖域があるし、俺も結界を張ってるから、っ?!」 「うわっ?!」  縮こまっていた辻馬車のお客さんの一人が、めっちゃ速い動きでデカいナイフを鞘から抜いて、私が展開した聖域の更に外側に張ってある、ミーティオルの結界に切りかかってきた。  それをキッカケにしてか、他の人たちも結界に攻撃してくる。  しかも、無表情で。なんだ? ワケ分かんないし怖いぞ?  ミーティオルは低く唸って、ライカンスロープの力で彼らを弾き飛ばした。 「ミーティオル?!」  遠慮ないね?! 「キリナ! スキラー・クレスミーだ!」  え?! そうなん?! 「奴らのやり方だ! 一般人に催眠術をかけて捨て駒にしてる! オーガとかがキッカケでそれが発動したんだ、恐らく! だから今の今まで気付かなかった!」  ミーティオルに弾き飛ばされた人たちは無言で起き上がり、また攻撃してくる。周りも続々と攻撃してくる。 「ありましたね、そういう戦法が! オーガの中身もそのようですね!」  キリナが大砲型の銃と拳銃を二丁持ちして、攻撃してくる奴らへ銃弾を浴びせながら、叫んで伝えてくれる。 「じゃあ何?! この人たちみんな、私を狙ってるスキラー・クレスミーに利用されてるってこと?!」 「だろうな!」「でしょうね!」  じゃあこの人たちなんも悪くないじゃん!  スキラー・クレスミー許すまじ! 「催眠術解けろ!」  神! 力を貸してくれ!  祈ったら、周りの人たちがバタバタと倒れた。 「解けた……?」  なら、良かった、けど……なんか、頭のくらくらがピークに……? 気持ち悪くなってきたし……。 「ニナ?!」 「どうしました?!」  やべ……これ、たぶん熱中症だ……。 「ミーティオル……水……」  なんとかそれは言えたけど、そこで意識はおさらばした。  ◇ 「ニナ!」  ミーティオルは、気を失ったニナを木陰に連れて行き、状態を確かめる。 「ニナさんの容態は?!」  ニナの異変を察知して、駆け寄ってきたキリナに、 「気絶する前に水って言ってたし、この感じからして熱中症だ」  ミーティオルは言いながら、カバンから水袋と数枚の布を取り出す。そして水袋の栓を抜き、布を濡らし、ニナの額や首周り、脇や膝裏に布を当てる。合わせて襟元や袖口などのボタンを一、二個外し、緩める。 「あの人数の催眠術をいっぺんに解いたのも効いたんだろうな。……ったく、人のために無理をする……」 「思考が健全ですね、ニナさんは。スキラー・クレスミーにこれほどの催眠術をかけられたということは、彼ら全員、スキラー・クレスミーと何かしら取り引きをしていた筈です」 「だろうな。良くも悪くも」  キリナの言葉に同意を示しながら、ミーティオルはニナの頭を少し持ち上げ、水袋から水を少量、口に含ませる。 「どんな取り引きであれ、全員そのまま、息の根を止めても良かったんですが」  ニナの喉が、こくりと動く。ミーティオルはまた、少しだけ水を流し込む。 「俺もそう考えてた。あの催眠術、動き出したら意識を失っても体は動き続けるだろ。指令を完遂するまで。殺さないと、完全には動きを止められない」 「よくご存知で、!」  キリナが銃を構えて発砲するのと、 「増援か?」  ミーティオルが呟いて力を使ったのは同時だった。  ぞくぞくと現れる『彼ら』は、額に三日月を持ったドクロの面を付けていて、キリナとミーティオルに無言で応戦する。 「増援、というより本命ですかね」  キリナは舌打ちをすると、また、長銃と拳銃を二丁持ちにして、弾幕を張るように連射する。 「ミーティオルさん。薙ぎ倒しても時間の無駄です。スキラー・クレスミーの捕獲隊ですよ。隙を見て逃げの一択です」 「こいつ等が捕獲隊か。無駄に頑丈だな」  ミーティオルが言いながら、ニナを抱き上げようとした時。  支えていたニナの頭が、ミーティオルの手から滑り落ちるように動いた。  ニナはそのまま、波打つ地面に一気に沈み、トプン、と消える。 「ニナ?!」  ミーティオルがそれを追いかけて、手を突っ込もうした時にはもう、そこは硬い地面に戻っていて。  ミーティオルの爪が、ガリ、と土を抉る。 「ミーティオルさん?! 何がどうしました?!」  横目で状況を確認したキリナは、 「ニナさんは?!」  ニナがそこに居ないことに目を見張る。 「地面に、……吸い込まれた。今、……目の前で……」  あれは。あの消え方は、母の。  呆然としているミーティオルと、撤退していく捕獲隊を見て、キリナは舌打ちをする。 「ミーティオルさん。ニナさんは捕まってしまったようですね。一人だけでも捕らえます」  キリナは一番動きの鈍い捕獲隊員に目を付けると、その一人に攻撃を集中させる。  撤退の意識が強かったのか、仕事は終わったと気が緩んだのか、足に数発受けた敵はよろめいた。周りが撤退していく中、キリナはよろめいたその一人に素早く接近し、隊員の両腕と両足を折り、気絶させる。 「……」  他の捕獲隊の姿はとっくに消えており、気配すら追えない。  キリナはそれを改めて確認すると、気絶したままのスキラー・クレスミーから仮面を剥ぎ取り口に縄を噛ませ、引きずるようにしてミーティオルのもとに戻って来る。  呆然と地面を見つめているミーティオルの肩を、キリナは強めに叩き、 「ミーティオルさん、しっかりして下さい。あなたはニナさんの聖獣です。どれだけ遠くに居ても、ニナさんの生死が分かる。死んだ感覚はありますか?」 「しら、ねぇよ……死んだ感覚ってどんなだ……?」 「そう言えるということは、死んでないということです。一応説明しますが、聖獣より先に聖女が死んだら、聖獣は苦しんでのたうち回るんですよ。さあ、ニナさんがどこに連れ去られたか、まあ、場所はスキラー・クレスミーの拠点の一つでしょうが、吐かせられるだけ情報を吐かせましょう」  気絶している捕獲隊員を、ミーティオルに見せるように地面に転がし、キリナはそう言った。  ◇  意識が浮上して、薄く目を開けたら、花柄の刺繍がされた布と、一人の人間の顔が見えた。  ……。どこやねん、ここ。誰ですか? あなた。 「あら、起きた?」  私を覗き込んでいた、私より少し年上に見える色白のその子は、キラキラした薄紫色の瞳を細めて、満面の笑みになる。 「……どなた……? ここ、どこです……?」  前にも、似たようなこと聞いたな。……夢の中でだ。 「ここはね、ワタシのお家のアナタのお部屋。あなたはこれから、ワタシのお人形さんよ」 「はい……?」  よっこいしょと起き上がり、ふわふわした、羽毛布団? みたいな掛布をどける。  寝かされてたんだ? そんでこれ、天蓋付きベッドってヤツ?  思っていたら、白いレースの手袋をしていることに気付く。そして、自分の格好にびっくりした。  真っ白なレースがいっぱい付いた薄い水色の、なんていうか、ロリータ服みたいな服なんだもん。  いつの間に着替えた? ……着替えさせられた? 「どう? 気に入ったかしら、そのドレス。ワタシが選んだの。そのチョーカーも」 「チョーカー?」 「そうよ。目印の」  私とおんなじようなデザインの、薄い紫色の服──ドレスを着て、黄緑色の髪を可愛く編み込んでリボンとかで飾っているその子は、頷いた。そんで、サイドテーブルに置いてあった華奢な手鏡を、これまた私と同じようなレースの手袋を着けている手で持って、笑顔のまま、差し出してくる。 「……」  受け取って、自分を見て。  髪も下ろされてるのは、もう、なんか、いいや。  それより問題は『チョーカー』だ。  どう見てもこれ、ネックレスのチョーカーじゃなくて『首輪』だよね。ミーティオルが付けてるのと似てるし。 「起きたなら、髪を結いましょう。アナタのオレンジ色の髪、とっても綺麗なんだし、そのままは勿体ないわ」  その子は、ベッドサイドのテーブルに置かれているベルを持って、チリンチリンと鳴らす。 「……」  涼やかな顔をしてるその子の両耳には、三日月とドクロのピアスがあった。そのデザインは、どう見ても、スキラー・クレスミーの奴らが持っていた武器の刻印と、同じ。  私、ヤベェ人の所に、連れ去られたっぽい。
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