10 半神なの?

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10 半神なの?

 ミーティオルにトントンされて寝てしまって、起きたらお昼近かった。  寝坊した! って慌てたけど、ミーティオルは、 『大丈夫だ、ニナ。さっきキリナが顔を出したけど、まだ時間がかかりそうだって言ってたから』  って言ってくれて。 『そうだぞ。ニナはたっぷり休むといいのだ』  サロッピスもそう言ってくれた。  なので、お言葉に甘えることにして、キリナが持ってきてくれたというジャーキー干し肉をもぐもぐしている。 「ミーティオルたちは何か食べたの?」  もぐもぐを終えてごっくんして、上を向く。  私は今、ソファに座ってるミーティオルのお腹に背中をくっつけて、膝の上で抱っこされているのだ。 「ああ。俺は同じものを食べた。カーラナンの増援が沢山持ってきてくれてるらしい」 「そうなんだ」  起きた時に浄化したけど、念のため、もう一回ミーティオルを浄化しとこ。  パァッ! てさせたら、ミーティオルは笑って、頭を撫でてくれる。 「ありがとうな、ニナ」 「ううん。だって、心配なんだもん」  言って、水袋から水をごくごくする。 「我も食べたぞ、ニナ。ここの食事以外のものを口にしたのは久しぶりだ」  ふわふわ飛んでいたサロッピスも、言いながら顔の前にスィ、と降りてきたので、妖精だけどサロッピスにもパァッ! とさせておく。 「おお、ニナの力は全く凄い。流石は神の子だ」  サロッピスが嬉しそうに、くるりと空中で一回転する。 「浄化の力もなんか違うんだ?」  ごくごくし終わって、水袋に栓をしながら聞く。 「全てが違うだろうな。ニナは格が違う。神の子だからな」  教皇の血筋すっげえ。 「ニナ、その辺の話なんだが。ニナの力の由来、つーか、ニナの親の片方が分かった」 「え?! そうなの?!」  誰なん?!  テーブルに乗ってるドライフルーツの袋へ伸ばしかけてた手を止めて、ミーティオルを見上げる。  ミーティオルは困ったような笑顔で、 「ニナ、落ち着いて聞いてくれ。ニナは本当に、神の子なんだそうだ」  ……はい? 「そうなのだ。ニナの親は神なのだ。だからニナは神の子なのだ」  サロッピスぅ? 「……神様の子供って、えと、親の片方って……片方が神様、なの?」 「そうらしい」「そうなのだぞ」  マジ? 片方が神なの? 「私、半分人間じゃないの……?」  半神なの……? 「大丈夫だよ、ニナ。ニナが誰から生まれてても、ニナはニナだ」  ミーティオルは、そう言って頭を撫でてくれて。 「ニナ。怖がることではない。誇らしく思うことなのだ。神はいつもニナを見ている。見守っている。ニナを愛しているからな」  サロッピスも、胸を張って言ってくれる。 「キリナが戻ってきた時にも、それは伝えてある。キリナは色々納得したふうだったよ」  そうなん? そんな簡単に納得できるもんなの? 「キリナはな、『だからこんなにも規格外だった訳ですか。髪と瞳の色も腑に落ちました』つってた」 「髪と瞳の色?」  それが神様となんの関係が? 「ああ。カーラナンの神の姿は、オレンジの髪と水色の瞳を持つって伝えられてるらしい。神の血を継ぐ初代の教皇は、その色を受け継いで、オレンジの髪と水色の瞳を持つんだそうだ」 「そうなんだ? ……あ?!」  夢の中で会った、あの人。 『この髪色と瞳の色に、覚えは?』  オレンジ色の長い髪と、水色の瞳を持っていた。  しかも。 『子を持つ親の感覚を、久方ぶりに味わっているぞ』  そう、言ってた。  オレンジと、水色。親という言葉。  あれ、夢じゃなかったりする?  あの人が神様で、私の生みの親? だったりする? 「ニナ? どうした?」 「驚いた顔をしているな。ずっと両親ともに人間だと思っていたからか?」 「い、いや、そうじゃなくて……」  私は、覚えてる限りの夢の話を、ミーティオルとサロッピスにした。 「なんと! ニナは既に神に会っていたのだな!」 「ニナ……夢だと思う気持ちは、……まあ、分からなくないけど……」 「いや、本当に夢かもしれないけど。ていうか、あの人、神様が親だとしても、男の人なのか女の人なのか分かんない」  顔は綺麗な人だったけど。見た目も声も性別不明だったし。年齢も……何歳だろ、あれ。見た目は若く思えるけど、雰囲気がなんか、若くないような……?  人間離れしてると言えば、人間離れしてるな。 「神は神だからな。性別など関係ない」  そうなの? 「カーラナンの教えも、神は神、だとしか言ってないんだっけか。性別が関係ないなら、男親か女親かも分からないな」 「ええ……」  謎が謎を呼ぶ……。 「さっきからカーラナンの神と言っているが、神は人間の神だぞ。カーラナンの神ではない」 「そういや、そんなこと言ってたな、お前」  ふわふわ浮かぶサロッピスに、ミーティオルが顔を向ける。 「人間の神……?」  どういうこと……? カーラナンと違うん……? 「そうだぞ。人間を司る神なのだ。ニナ、話しただろう? 赤子のニナを助けるべく、神たちが声をかけてきたと。その中の一柱が人間の神であり、ニナの親なのだ」 「そうなんだ……?」  更に謎が増えた……。  そこに、ノックの音が響く。 『ミーティオルさん、サロッピスさん、キリナです。入って大丈夫ですか?』  キリナだ。でもなんか、声、ちょっと硬くない? 「ああ。ニナも起きてる。追加の情報もあるぞ」 『はい?』  ドアが開いて、キリナが入ってきた。後ろから、もう一人。……なんだ? キリナに似てるな。親戚の方? 「追加の情報って、なんですかね? こちらからも話があったんですが」 「ニナ、神と会ったことがあるらしい」  ミーティオルのその言葉に、入ってきたキリナともう一人は、驚いた顔をした。 「……先に、そちらを詳しく聞きましょうか」  キリナが、神妙な顔になる。  私は、そんなキリナと、キリナのお兄さんのキリヤだと軽く自己紹介してくれた人が対面のソファに座ってから、また、夢の話をした。  てか、キリナ、お兄さん居たんだ? 似てる訳だよ。 「銀色の草原、ということは、本当に神の世界ですね」  キリナのお兄さん、キリヤさんが軽く頷きながら言ってくる。  そうなんだ? じゃあホントに、あの人が生みの親なんだ?  キリナは神妙な顔のまま、 「ニナさんの目的地変更が確定しましたね」 「え? 変わるの?」 「変わります。ニナさんとミーティオルさん、そして同行するというサロッピスさんは、兄たちと共に、セラム・カーリナの正大神殿に向かってもらいます」 「教皇がいるっていう?」 「そうです」  キリナは頷くと、 「手紙も送りますが、一刻も早く、教皇様方にお会いしていただかないと。あなたは現在、この場所で一番権力のある人物ですからね」  そう言って、 「それと。こちらからの話ですが。兄たちが来てくれたので、僕は通常任務に戻ることになりました」  え? 「ニナさんたちの警護は、兄たちが担当することになりました。その引き継ぎの話をしに来たんですよ」 「え? え? なんでキリナは抜けるの? 一緒じゃ駄目なの?」  私の言葉に、キリナは口を開きかけたけど、キリヤさんが先に喋った。 「ニナさん。次々と混乱させてしまったようで、すみません。我々が居ますので、キリナは通常任務に戻るのが最良だと、そういう判断になりました。ニナさんたちの安全は保障します。人数が桁違いですからね」 「だとして、なんでですか? キリナも一緒なら、更に安心じゃないの?」 「ニナさん。五百年戦争の予言の話を覚えていますか?」  キリナが神妙な顔のまま、また、少し硬い声で言った。 「覚えてるけど……?」 「ならば、僕は戦力を集め、『ワーウルフ』退治の任務に戻らなければならないと、それはご理解いただけますか?」 「……」  理屈は分かる。けど、嫌だ。色々と嫌だ。 「だとしても、キリナも一緒じゃないとイヤ。五百年戦争だって、異教徒が起こすって決まった訳じゃないじゃない」  アエラキルも。アニモストレたちも。お人形さんにされてたあの子たちも。ここに囚われていた他の人たちも。  彼らが殺されるなんて、嫌だ。  そんなの、まっぴら御免だ。 「ニナさん。キリナの話はともかく、五百年戦争についての見解は、教皇様方と直接お話をしていただけたら、何か変わるかも知れません」  キリヤさんが、諭すように言ってくる。 「教皇に会うメリットは分かりました。ですけど、キリナが一緒じゃないと嫌です」 「……どうしてそんなに頑なになるんですかね……」  キリナがため息を吐いて、そんなことを言う。  なんだ? イライラしてきたぞ?  キリナの態度にイライラしてきたぞ? 「キリナもずっと、ここまで一緒に行動してたじゃん! キリナだって別行動したくなさそうだけど?!」  言ったら、キリナは目を見開いて。キリヤさんは苦笑する。 「ニナさん、「俺もニナに、半分賛成だな」  キリヤさんの言葉を遮って、ミーティオルが唸るように低い声を出した。 「キリヤ。アンタ、何か隠してるな? 裏切り者の匂いがする。そんなアンタと行動を共にしたくねぇな」  なんだと? 「ふむ。我も不可解に思う。キリヤ、お前、善良さは感じられるが、善良さしか感じられない。実に不可解だ。そのような人間は存在しない」  おお? サロッピスまでなんか、すごいこと言い出したぞ? 「何か、誤解をさせてしまいましたかね。私はいたって真面目なつもりなんですが」  キリヤさんは苦笑したまま言って、 「……皆さん。兄はとても優秀ですよ。優秀ですから、そのように見えるのかと」  硬い声と表情に戻ったキリナも、キリヤさんの肩を持つ。  ええい! ならばこうだ! 「キリヤさん! 隠し事があるなら話して! 裏切り者ならあなたと一緒には行きたくない!」  神! 父か母か知らんが神! 力を貸してくれ! 「ニナさん、隠し事など──」  苦笑していたキリヤさんが動きを止めて、変な顔をした。 「っ……俺は、教皇様から……」  キリヤさんの顔が焦ったものになって、手で、何か話し始めた口を塞ぐ。  そして、キリヤさんは驚いた顔になって、なんか、抵抗するような感じで口から手を外すと、 「俺は、教皇様から、命を、受けて、……ニナという少女を、その御前に、連れて……くるよう、手を、回していた」  またなんか、抵抗するような、苦しそうな感じになりながら、話し始めた。
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