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5.二人目の子ども
自転車を30分近く走らせて、「白梅慧雪文庫」と書かれた木の板が掲げられた門の前までたどり着いた。急いで自転車をこいだせいで、息が切れていた。のどに入る空気が冷たい。
冬は日暮れが早い。少しずつ暗くなる。それに加えて、この図書館は閉館時間が早かった。午後四時には閉まる。あと一時間もない。
子どもは前かごの中から木の板を眺めていた。
「……白い梅の花と、彗ちゃんと雪がいます」
澄んだ眼差しで、惹かれたようにつぶやいた。
「彗」の字は、「慧」の中に含まれていた。
迷子の子が実際の白梅の花を知らなくて漢字しか読めないのなら、この図書館の名前は親しみを抱いてもおかしくないと思った。
ようやく息を整え、自転車の前かごから子どもを抱えておろす。
「いそう?」
「ここにいます」
確信をこめて頷くと、子どもは大きな声で呼んだ。
「彗ちゃん!」
門の引き戸が内側からわずかに開けられて、猫くらいの大きさの子どもがおずおずと顔を出した。声の相手を認めると目を見ひらいて、門の外まで出てくる。
肩につくかつかないかくらいの金色の髪、銀色の目。白いレインコートに白いブーツをはいていた。
黒髪に水色の目をした子どもはそちらに駆け寄り、二人は両手を広げて抱きしめあった。
それから二人は何かを話していた。会話の内容まではわからない。でもたぶん、今までのことを話しているのだろう。表情は明るかった。
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