6.心にあるもの

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6.心にあるもの

 僕はその様子をぼんやり眺めていた。自転車をこぎ疲れてあまり動きたくないせいもあったけれど、二人がまだ先の春を呼ぶような笑顔を互いに向けていたから、なんだか黙って見ていたかった。  探していた迷子は確かに綺麗な子だった。  顔立ちが、というよりも、その子のまわりには金色や銀色の粉のようなものが舞っていた。冬の寒気の中で光る粒は、何かに似ていた。遠い彼方の無数の星、と言われればそうかもしれない。  黒髪の子どもの水色の目も、何かに似ていた。冷たくすきとおるような、湖に張られた氷のような、もっと身近に知っているような、何か。  そこまで考えたとき、二人の子どもが手をつないで僕の足元まで寄ってきた。  金色の髪の子どもはゆっくりと頭を下げた。お礼のつもりだろう。顔を上げると、はにかむように笑った。  水色の目の子どもは僕をじっと見上げている。 「ありがとうございました」 「よかったね」  自然と口をついて出た言葉は、自分でも少し驚くくらいに穏やかだった。  この子たちは、僕とはちがう生き物だから。何も取りつくろわなくていいと思った。  しゃがみこみ、水色の目を見つめる。 「なんで僕に声かけたの?」  ひとつだけ、訊いてみたかった。 「あなたのなかに、ぼくがいます」  子どもの声は静かに僕の耳になじんだ。 「ぼくがいる人にしか、ぼくを見ることはできません」  それで僕は、この子が何かわかった。 「ぼくがいる人に、ぼくは引き寄せられます。その人のそばに、おりたくなります。たいせつに持っていていいかなしみもあるって、伝えたくなります」  子どもは小さな手のひらを僕の手の上に重ねた。冷たくも熱くもない、水のような温度。 「ぼく、あの子といっしょに白い梅の花におりてきます。きっとおりてきますから、見にきてくださいね」  子どもは柔らかな微笑みを見せた。  そうして二人の子どもは、手をつないだまま空に上がっていった。  こちらを見ることもなく、風に舞う木の葉のような速さで遠くなっていった。  
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