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「舞台初日は、まずまずだった」
そう告げたのは劇団リーダーである。
脚本、演出、演技指導もろもろ担っていてとても恐い存在だ。その人からまずまずだ、と。
この劇団では出来がわるけりゃ容赦なく降板させられるから役者全員は毎回限りない緊張と闘っている。
「明日も変更なしでいく」
静かな宣言に、全員が「はい!」と答えた。
帰り支度をしているなか、リーダーがちょいちょいと指先で呼んだ。
「はい」
「のり、今日はどうだった?」
「ど、どうだった……と、とは……?」
「演技、やりやすかったか?」
しばし考えて、こくんと頷いた。
「そうであればいい。明日も頼んだぞ」
「は、はいっ」
左腕をパンパンと叩いて俺を鼓舞したリーダーは今日は疲れたろうからしっかり休めよ、と言い置いて小さな劇場を後にした。
(千秋楽まで、頑張りたい)
きっと、あの子は見にきてくれる。
手術を乗り越えて。
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