届けたい

4/7
前へ
/7ページ
次へ
 定期的なボイスメールに根気よく付き合ってくれたNoriさん。  ポッドキャストの声の、私が受けた印象と一致した返信メールの内容は楽しく優しい言葉が並んでいた。  心のなかで組み立てた言葉を自分以外の人に伝える手段の『話す』行為。  (苦手だといっていたのに)  吃音が出るから誰かと喋ること自体避けてしまうことが多いと知った。  でも、ポッドキャストの朗読を聞く限りはスラスラと読めている、と伝えたとき自分の思いを声に乗せるわけではないから、と返ってきた。  自分以外の人と話すことがダメなんだ、と。  そんなNoriさんが今日から舞台に立っている。  (私も、頑張りたい)  視力が落ちた原因は、視神経を圧迫している血腫。それを取り除けばある程度まで見えるようになる、と脳神経外科の医師(せんせい)に言われた。  問題は、血腫の箇所。  日本有数のゴッドハンドを持つ医師が唸るくらいの難しさらしい。  (頑張りたいけど、怖い……)  そんな風にNoriさんに伝えてしまった。    数日して返信があった。    「自分が舞台に立って、君を応援す     るから。期間は約1ヶ月。うちの劇団リーダーは厳しくて、ダメだと思ったらすぐキャスティングを降ろす鬼。そうならないよう頑張って千秋楽まで舞台に立つ。君に、見にきて欲しい」  要約するに、自分も頑張るから私にも頑張れって。    また、大好きな本を読みたいって思いから手術を受けようと決心してみたものの……医師に唸られて怖じ気づいて、他人同然の優しい人に甘えてしまった。  もちろん舞台で頑張っているNoriさんを見たいのは本心だけど、まず謝りたい。  (無理をさせてごめんなさい)     そして、お礼を言うの。  (頑張れたよ、ありがとうって)
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加