幸せ定期便

　メールボックスを開けると、郵便物と共に大家さんからのお知らせの紙が入っていた。

　8月からこのアパートは動物の飼育が可能になるらしい。

　以前、住人の意向伺いの連絡がきていたっけ。

　でも飼育可になるとは思わなかったな。
　だって住人全員の賛同が得られなければ飼育可にはしない、と書いてあったから。

　私が階段に足を向けようとしたその瞬間、101号室の扉がキイと小さな音を立てて開いた。

　扉から覗くその姿に私は思わずギョッとして立ち止まった。
　それは向こうも同じだったらしく「あわわわっ」と間抜けな声を上げている。

　そう、その腕の中に抱かれていたのは、チワワだろうかクリーム色の可愛らしい子犬だったのた。

　101号室の伊藤(いとう)さん。
　彼女はこの間、203号室の人がこっそり猫を飼っているのを知って激怒していた。「大家に言いつけてやる！」と喚き散らしていたのだけれど……。

「も、もう12時を過ぎているから8月よね。今日から飼育可なんだから」

　伊藤さんはそう言って子犬に頬擦りしてみせる。

「猫は大嫌いだけどワンコは可愛いのよねー」

　アプリを見てみると今月の定期便はお届け済になっていた。