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──あと1回だけ、あたしを抱いて。でも、あたしのことは忘れて。
忘れろと言われて忘れられるわけがない。
理由を聞こうとしても頑なに言わなかった彼女とは次の日から一切会えなくなった。
シーツの擦れる音、彼女の色っぽい表情と声。触れ合う肌のぬくもり。
どれも忘れられるわけがなかった。
彼女にしたかったけど、言っちゃダメだというような雰囲気を纏った彼女とはずっと身体を重ねるだけの関係で、そのはじまりも彼女からだった。
「紺田は彼女つくらねぇの?」
「彼女ねぇー作れるもんなら作りたいけど、無理じゃねぇかな。すぐ振られるんだよね」
「なんで?」
「自分を見てないのがまるわかりなんだとよ」
俺に色濃く残して去っていった存在を消そうと、色んな人と付き合ってみた。
でもすぐに「あたしのこと好きじゃないでしょ」と言われて振られる。
俺的にはちゃんと大事にしてるはずなんだけど、どうも違うらしい。
気づけばあの夜から3年が経とうとしていた。
「そういえば、この前林道さん見かけたよ。お前仲良かったよな?」
「は!?」
友人が口にした名前につい大きな声が出てしまう。
ずっと探し求めていた彼女の存在に声が大きくならないわかがない。
「そんながっつくなよ、林道さんのこと好きだったとか?」
「まぁ、そんなとこ……」
「なるほどなぁ。しかし残念、林道さん結婚してるぞ」
「けっ、こん……」
心のどこかでもう一度会えたらと願ってはいた。
しかし、会えたところで……って話になりそうだ。
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