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落とし物
学生生活課に問い合わせたら誰かが拾って届けてくれたらしい。
拾ってくれた人にお礼が言いたいけれど。
拾ってくれた人の名前は教えてくれなかった。まさか、あの時の彼じゃないよね?
数日後、カフェテリアで彼を見かけて思わず声をかけた。
「あの、すいません!」
「ん?」
「あの、お財布届けてくれた方…、ですか?」
「あ…、財布?あぁ、知らね。」
「あの時確か私とぶつかって…。ごめんなさい…。」
「だから知らねぇっつーの。」
「え?すいません。」
周りに注目されてなんか気まずくてその場を立ち去ろうとした。するとすぐ後ろからまた同じ顔!
え…?どういう事?
たったいま冷たくあしらわれたその顔がまたすぐ後ろの目の前に。
驚きすぎて持ってたトートバックを落としたらその同じ顔の彼が拾ってくれた。
「大丈夫?」
「あ、はい…。」
あれれれ?同じ顔が二人?だけど大違い。こっちの彼はすごく優しい。
「はい。どうぞ。」
こっちがあの時の彼?
なんだ双子なんだ。
「あ、あの、ありがとうございました。」
「あぁ…、財布ね…。」
彼がもう一人の彼をチラッとみた。向こうの彼は振り向きながらイライラして目をそらした…。
「お財布のお礼が言いたかったから…。」
「そうなんだ。よかったね。お財布、無事に手元に戻って。」
ニコニコして彼がトレーを抱え席に着く。
あぁ。なんて笑顔が優しくて素敵なの…。
ペコリと頭を下げ、浮かれて立ち去る私に、そのあと二人が話してた会話なんか聞こえるはずがない。
*
「凌空、なんで知らないなんて言ったの?拾い物どこに届ければいいんだろって言ってたじゃん。その事じゃないの?」
「べ…、別にお礼を言われる様な事でもねぇし。」
「わ。なに?赤くなっちゃって。凌空が人助けするとか柄じゃないもんね。」
「ほっとけ。」
「あの子、お礼言いたかったんだからどういたしましてって普通に言えばよかったのに。照れちゃって。
可愛かったよね。タイプでしょ。凌空の」
「そんなんじゃねぇし。別にお礼とか言われなくていいし。」
「あれー?なんか顔赤い。」
「赤くねーし。」
「わかりやすいね。」
「何がだよ。」
「別に?やっぱ僕ら双子だよね。女の子の好みも一緒みたいだ。」
「は?違うし。」
「違うんならいいや。じゃあ、僕が拾って届けた事にしちゃうけど、いいよね?」
「どうぞご自由に。」
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