11、チケット

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11、チケット

 佳奈を電話で呼び出した。 飯田橋の桜テラスで会うことになった。佳奈の方も話したい事があるようだった。前に別れ話を切り出した時と同じように、二人でテラス席に並んで座った。このテラスは川沿いにある。桜の季節には川に沿って満開の桜が楽しめる。有名なデートスポットだ。  俺が佳奈に訊いた。 「今日は、チケットは?って言わないの?」 「私も会いたかったから要らないや。あのね。父が私はしつけが成ってないから、スイスのフィニッシングスクールへ行けって言うの。嫁の貰い手が無いから、暫く帰って来るなだって」 「そっか。スイスに行っちゃうのか……」 「うん。仕方ない。会社に勤めてみてダメさ加減も良く分かった」 文人は名刺を1枚出した。 「コレは、お膳別だ」 1枚の名刺用紙に、小さな小さな手描きの字で”One more time”とビッシリ書いてあった。細い細いカラーペンで。表にも裏にも。 文人が昨夜、夜鍋で1枚に100個書いた。 それを手に取った佳奈は、じっと見つめた。 「君がくれた100枚のチケットは、あの日に全部捨てたんだ。手元には1枚も無い。だから、今度は僕からチケットを渡す。作ってみたら『定期』になっちゃったよ。だから期限は無しだ。 「そうだね。定期だね」と言って佳奈は初めて文人の前で涙を溢した。 「定期」を両手の指で摘まんで、佳奈は嗚咽を漏らして泣き出した。泣きながら、佳奈は言った。 「本当は……私の事…好きじゃなかったんだね……」
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