ワンモア・タイム

２、部長の娘

　佳奈との別れ話もしていないのに、部長の娘と引き合わされてしまった。
井上莉帆さん。２９歳。見るからにとても上品で美人、某有名大学卒。
うちの会社はプライム上場の一流企業だ。部長は次の人事で役員になると噂されている。
俺が、莉帆さんと引き合わされたのは部長の自宅だった。ゴルフの後、部長を車でお送りしたら、邸宅にお嬢様が居た。部長の策略だったらしい。

　その後、莉帆さんと二人だけでお話をして、次は莉帆さんが好きな歌舞伎にご一緒することになった。当日の莉帆さんは和服姿で美しくて一緒にいる俺まで誇らしかった。

　こうして、部長のお嬢様とのお付き合いも始まっているのに、佳奈とは切れていないという、凄く、とても、よろしくない状態になってしまった。

　最初から、佳奈は精々セフレだなと思っていた。結婚するにはバカすぎるし、話す内容も庶民代表だ。歳も離れているし、大した美人でもない。

　佳奈は、こんな風に部長のお嬢様と比べられているのを知ったら、おれが別れるって言ったら、泣くかな。仕方ないんだよ。住む世界が違うんだから。

　俺は、只のリーマンで裕福な実家も金も無いんだから、太い人脈ぐらいほしいのは当然だろ。同じ会社なんだからさ、理解してくれよ。佳奈。泣いたりしないでくれよ。
修羅場はごめんだ。