6、お上品なエセお嬢様

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6、お上品なエセお嬢様

 こうして、俺と莉帆さんとのお付き合いが始まった。 二人で、狂言を観に行った時だった。相変わらず、着物姿が美しかった。 番組の途中の休憩で莉帆さんの機嫌が悪いのに気が付いた。 「どうかしましたか?」 「山上さん、品が無さすぎるわ。あんなに大声で笑うなんて」 狂言は、笑っていいものだ。元々喜劇なのだから。 品……ってなんだ?俺は少しムカついた。一事が万事この調子だった。 莉帆は上品だ。一緒に食事をしても必ず「口に合わないわ」と言う。 そして少し残す。自分の味覚がどれだけ鋭くて繊細か表現しているようにしか見えなくなるまでに時間は掛からなかった。  佳奈だったら、一緒に狂言を観てわははと笑っただろう。デートで碌なもの食わしてやらなくても「おいし~ね」といつもニコニコしていた。焼き鳥の串を両手に持って食ってたな…… 莉帆は、いつも着物姿だったが、着崩れても自分で直せない。だから、デートの途中で帰ってしまうことも多かった。 大企業の部長の娘、29歳、独身には、それなりの訳がある。それに文人が気が付いたのは割と直ぐだった。  予想通り、お嬢様の方からお断りしてきた。エスコートがなっていない! これが理由だった。 この顛末と言うか別れには、何も感じなかった。 男は身勝手なものだ。 「愛していない人と結婚するの?」 これは、まともな頭を持った人間の言葉だと気が付いた。 少しでも愛していれば、自己中で見栄っ張りでも莉帆さんにもう少し食らいついていただろう。
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