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8、深窓のご令嬢
会場のホテルの喫茶店で、佳奈の父親は俺に頭を下げた。
「うちの娘は、年齢もあると思いたいんですが、かなり変でしょう?
この子は学校教育をスイスで受けたんですよ。妻の意向でそうなりました。18歳からフィニッシィングスクールに入れてレディーに仕立てるつもりだったんですが……社会勉強すると言って聞かなくて、そちらの会社に無理くりお世話になったんです。
実は未だ19なんです。中身は19にもなってやしません。
すみません。あなたには公の場で恥をかかせてしまいました」
佳奈は他人事のようにジュースを飲んでいる。2杯目だ。
父親は娘の態度を見て厳しくたしなめた。
「人様をお金で買うなんて人身売買だぞ!」
「パパだって、いつもお金で買えないものは無いって言ってるじゃない。この人は嘘つきだから、分かりやすく教えてあげたのよ。それだけよ」
佳奈は、不貞腐れたように言うと今度は俺の方を向いて手を出した。
「チケットは?」
「は?」
「あなたにあげたでしょう?私ともう一度会うためのチケット。100枚もあげた」
「One more time……」
「そうそう。それよ!少し、私は怒っているの。愛してない人と平気で結婚しようとするあなたと、私の事を愛しているのに認めないあなた。その二人に怒ってる。私に会いたいなら、ちゃんとチケットを使ってください。これからはそうじゃないと会いません」
佳奈は席を立って喫茶店を出て行ってしまった。
残された文人と佳奈の父親は呆気に取られた。
佳奈の父親は文人を見て気の毒そうに言った。
「加奈子は勝手に考えついて何かしたんでしょう?アレが読めないと扱いにくい娘なんです。すみません」
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