1、お荷物

1/1
前へ
/13ページ
次へ

1、お荷物

 最初は好きだったはずだよな……と文人(ふみと)は思う。 となりで寝ている佳奈を見ていると何時も同じ疑問を感じる。  城崎佳奈(しろざきかな)は今年の新入社員で、まだ23歳。普通の子だ。入社したての頃、文人の周りを「主任、主任」とニコニコしながらウロチョロしていた。かわいいと思った。  彼女の背は高くもなく低くもなく、顔は、かわいい部類程度。身体は抜群のプロポーション。肩より長い髪を巻き髪にしていた。仕事中は、ぼんやりしてミスが多かった。その指導を任されたのが文人だった。  山上文人(やまがみふみと)は29歳、独身。仕事とはいえ、男女が、いつも一緒に居たら、なるようになってしまう。どっちが先に誘ったとか、今となっては分からない。  今はサポートしなくても佳奈は最低レベルの仕事をこなす。一応、一人立ちした。だから、今の文人は自分の仕事に専念できる。 佳奈は、バカだが社内恋愛のマナーは分かっている。誰にも喋っていない。  文人には、今、部長の娘との縁談が持ち上がっている。 それを如何に佳奈に理解してもらって穏便に佳奈との付き合いを終了するかが文人の現在の悩みだった。 佳奈は二人で逢う時、いつも「山上さん、大好きですぅ」とニコニコして言う。 佳奈の言葉遣いは変だ。語尾が伸びている。文人の話も理解できているのか不明だ。簡単な漢字も読めなくて「白金台」を「はっきん……え?」と、こんな感じだ。良く、この会社に入社できたものだ。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加