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邂逅
「何とか逃げられたね」
孔士は息を切らしながら禅宗を見る。
「お前の機転のお陰で助かったよ。それに美琴があの魔女に捕まっていることがわかった」
「随分と無茶をするね」
「ああまでしないと相手のペースに巻き込まれて泥沼にはまると思ったんだ。あの手のタイ
プはペースを握らせると厄介だからな」
ジャンヌは驚いた顔をする。
「あれは憤怒した訳ではなく計算の上での行動だったのですか?」
「そういう事だ。あのまま会話をしていても奴の思うツボだったと思うぞ」
「いきなり斬りかかったのは何故ですか?」
顎に手をやり禅宗の言葉を待つ。
「ああすれば必ず動揺して何かしらのぼろを出すと思ったんだ」
「あれでは無用に怒らせ禅宗の身が危険だったのではないですか」
「だがそのおかげで美琴がどうなっていたかが分かった。ならこれからどうすべきか考える
だけだ」
「まともに戦って勝てる相手ではないが生憎こちらには切り札がある」
「それは何なのですか?」
「それは…美琴だ」
「美琴ですか!」
ジャンヌは驚いて思わず大声を出す。
「ジャンヌ、声がでかい」
孔士が小声で注意する。
「美琴は捕まっているのですよ」
顔を赤くして小声で禅宗に言う。
「さっきの戦いでメディアのテリトリーで戦うにはこちらが準備不足だ。恐らくこちらの力
は知られていて何らかの対策が練られているはずだ。そうでなければ俺達の前に出てくる訳がない」
「なら私達は逃げるしかないという事ですか?」
眉間にしわを寄せて禅宗を睨む。それはジャンヌの力をしても勝てないと断言している事と
一緒であった。
「それも無理だな。空間を少し捻じ曲げられているから俺達の方向感覚ではこの森からは脱
出する事ができない」
「まさに八方ふさがりですね」
「外側から倒すのが難しいなら内側から倒せばいい」
「内側から?」
「外側が強固であればあるほど内側がもろいものだ」
「…そんなものですか?」
禅宗の言葉を疑いながらどこか納得してしまっているジャンヌ。
「誰だ?」
禅宗が誰もいない草むらを見る。
「猪かなぁ~」
孔士が近づくとミヤが座り込んでいた。
ミヤは黙って近づくと禅宗の服の裾を掴みぐいぐいと引っ張りどこかに案内しようとしてい
る。
「俺を案内しようとしているのか?」
「ここにいてはあの魔女に見つかる」
「!」
ジャンヌは驚き思わず槍を向けた。
「やめろジャンヌ! …何で俺達を助けようとする?」
「僕の所為でお姉ちゃんが捕まってしまった…。 だから助けて欲しい」
ミヤはうつむき涙目を浮べている。
「美琴を知っているのか?」
静かに頷く。
「お姉ちゃんを僕みたいに人形にはしたくない」
「人形?」
孔士とジャンヌはミヤを見る。
「君がもし人形なら創造主はあのメディアという事になる。それは裏切りになり君はもしか
したら殺されるかもしれないよ。それでもいいにかい?」
真っ直ぐとミヤを見る禅宗。
「それでもお願い。お姉ちゃんを…助けて…」
涙をこぼし強く拳を握る。
「禅宗。罠かもしれませんよ」
孔士がジャンヌの言葉を止めた。
「もうなに言っても無駄だよ」
「えっ?」
「あの子の顔を見た時に全部を決めている。もう禅は止まらない」
諦めた顔でいる孔士。だが強い決意とどこか楽しそうな顔でいるのにジャンヌは驚く。
「ですが危険です。私達が全滅すればもう終わりですよ」
「それを僕に言ってもしょうがないよ。僕は禅に付き合うだけだ」
ジャンヌは顔に手をやり呆れる。
「はぁ~。貴方はそれでいいのですか?」
「僕はそうすることで人になれた。戦争の道具とは違う生き方を学んだ」
「孔士…」
「それに…」
孔士は満面の笑みで続ける。
「禅宗がこの状況をどうぶち壊すかワクワクするんだ。いつもどんな絶望的な状況でも諦め
ずにもがきながら乗り越えてきた。それを見るのが少し楽しみでもある」
「何を能天気な…」
ジャンヌは呆れながらもどこか楽しそうな孔士を不思議そうに見る。
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