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邂逅 2
「とにかくこれからどうするのですか?」
ジャンヌは禅宗に問いかける。禅宗はジャンヌを見ると何でもないかのようにとんでもない
事を言い出す。
「美琴を助けあの魔女を倒す」
「はぁっ?」
ジャンヌは余りにも驚いて口を大きく開けた。
「まさかその子を信じるつもりですか」
「ああ」
「危険です。もし罠なら私達は全滅するのですよ」
「だがこのままこの森に居てもいつかは狩られる。自力での脱出が無理ならこの子にかける
のも一挙だ」
「ですが…」
言い返そうとするが他にいい策が思いつかないジャンヌには何も言える事はなかった。
今こうして言い合っている中でもメディアは禅宗達を狩ろうと探している。揉めれば相手の
思うつぼであり戦力の分散もまた得策ではなかった。
「孔士はどうするのですか?」
分かりきった問いをする。
「禅宗に付き合うだけだね」
ジャンヌは両手を上げて観念する。
「分かりました。禅宗の案でいきましょう」
神具使いとして生きてきたジャンヌであったがこうまで無茶をするのは初めてであった。
殆どを必ず勝てるという場合でしか戦ってこなかったので不安はある。だがこの二人がどう戦うかを見るのも少し楽しみではあった。
「それで美琴を助けるのに何か案はあるのですか?」
「それは今から考える」
「…不安だ」
先ほどの選択を少し後悔するジャンヌ。
「こおゆう事はな臨機応変に対応していけばいいんだよ」
「適当ですね」
あきれ顔を隠そうとしないジャンヌ。だんだんと禅宗達との付き合い方を掴み遠慮がなくな
ってきた。
ジャンヌの感情の変化を感じた禅宗は少し楽しそうな顔をする。
「案外、軍師なんてそんな感じだぞ」
「適当って事ですか?」
「悪く言えばそうだが戦いでは想定外は必ず起こる。戦いとはそおゆうものだと思っていた
方がいい」
長らく戦場で生きてきた禅宗の言葉には説得力がある。ジャンヌもまた戦場を経験しいくつ
かの修羅場をくぐり抜けたのでそこは理解できた。
「まぁ、取りあえずは先に進もう」
禅宗はミヤを先頭にすると後を追うように歩き出した。
「ちょっと待って下さい」
慌てて追いかけるジャンヌと
「お腹すいた」
マイペースで歩く孔士であった。
ミヤの案内で先に進む。時折り魔物が襲っては来るが禅宗等三人の前ではいとも簡単に退治
されていった。
「お兄ちゃん達はとても強いね」
「そうか?」
「うん。美琴お姉ちゃんもとても強かった」
「そうだな。美琴はとても強いな」
「それに優しかった。だけど…」
「だけど?」
ミヤはとても悲しそうな顔をする。その顔は美琴の事を心底心配しているかのようだ。
「とても寂しそうだった」
「…そうか」
禅宗は目を細め悲しそうに笑う。そしてミヤの頭を優しくなでると愛おしそうに空を見上げ
深呼吸をする。
美琴は長い旅に少し疲れていたのかもしれない。旅の前からずっと戦い通しであった人生に
心をすり減らしそれでも答えを探して歩いてきた。だが炎滅の巫女もまた普通の女の子と同じように生きてみたいと潜在的に思っていたのだろう。残念ながらそれは決して叶う事のない望みである。
「そうだったのか…」
「禅」
「何だ? 孔士」
「別に禅が責任を感じる事じゃないよ」
「何の事だ」
少し孔士に鋭い視線を投げつける。
「僕達は遊びでここに来た訳ではない。行き場も帰る場所もない僕達はこうして進むしか道
はなかった。苦しいことも悲しい事も沢山あったけどそれでも戦う以外のモノを僕達は三人で学び共有してきたはずだよ。喧嘩したり馬鹿をして笑ったりしてここまできた。僕はその時間がとても大切で大事だと思っている。だから禅はそれを否定してはいけないよ。これは美琴も同じはず」
「孔士…」
静かに笑う孔士。
「それに美琴を孤独から救ったのは禅だ。だから禅はこれからも美琴を…みんなを照らして
くれよ」
孔士は一瞬ジャンヌを見た。
「?」
ジャンヌは孔士の視線に気づいたがその意味を理解する事はできなかった。
「これは、これは」
天からメディアの声が響いてくる。
「こんな所にいましたか。今すぐ狩って差し上げますので」
禅宗達の足元からゾンビが這い上がってきた。
「またか!」
孔士は思わず叫んでしまうが状況は深刻である。
「二手に分かれるぞ」
「えっ?」
「このままではいつか全滅してしまう。ならどちらかが囮になるしかない」
禅宗の非情な決断にジャンヌは異を唱えようとするが
「分かった。なら僕が囮になる」
「…分かった」
禅宗が走り出す。
「ジャンヌ?」
「私もここに残ります。いいですね」
「ここにいたら死んじゃうよ」
「結局あの二人に託したという事ですよね」
ジャンヌは誇らしげに笑う。
「一番のめんどくさがりな貴方がいとも簡単に一番の死地へと足を運ぶ。アリスの時といい
私は貴方達に少し興味が湧きました。それにどうやらメディアは私のグングニルを辿っているようなのでここは私も囮をした方がいいようですしね」
「ジャンヌもなかなかの苦労人だね」
「ええ。本当は戦いたくなんてない。だけど誰かが戦わなければ国を家族を守れない。たま
たまその役目が私だったそれだけです」
「それはお気の毒に」
二人はゴーレムの群れへと走り出した。
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