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出会い
深い森を一人さ迷いながらも周りへの警戒は怠らない美琴。
常に抜刀できるように気を張り前へと進む。
所どころで猛獣に襲われはしたが美琴の刀により一閃で斬り殺されていた。
「ふむ。思ったよりも深い森だったな」
美琴は辺りを見渡し自分の軽率な行動を悔いる。
「だが確かに何かに呼ばれた気がしたのだがな?」
首をかしげ考え込む。
「取りあえず今はこの状況を何とかするのが先だな」
顔を上げ頭を切り替えるとさっさと先に進み出す。先程から嫌な視線を感じるが視界にはそれらしき物は見受けられない。
ガサッ
「誰だ!」
緊張しているのか気が高ぶり神経が過敏になっている。この状態が続けば体力的にきつくな
ってくる。
「ただの獣か…。だがこの状態は思ったよりきついな」
美琴は一人旅をした事がない。戦いの時に一人で大軍に突っ込む事はあったがその時はただ
目の前の敵を斬り伏せればいいだけのことであった。だが今回は目の前に敵がいる訳でもないただ何の標もない状態で一人知らない土地をさ迷うだけ。
普段なら禅宗か孔士が近くにいたが今はいない。
「震えているのか…」
手を見ると小刻みに震えている。美琴は思わず可笑しくなってしまう。
「そういえばこんな事は久しぶりだな。禅宗に出会ってからはこんな震える事もなかった」
仲間がいるというだけでどんな強敵とも戦ってこれた。本当に恐ろしくて強い化け物も禅宗
が共にいれば挑むことができる。
「昔はよく一人で震えていたが誰かがいないという不安はなかったな」
頼れる仲間がいる。守るべき物がある。それが近くにないと得体のしれない不安が心を
蝕んでいく。
「しっかりしろ美琴!」
美琴は両側の頬を叩くと気を引き締めた。
「取りあえず…寝床でも探すか」
今日中に帰還する事を諦めたのか寝床を探し始めついでに今晩の食材も探していく。久し
ぶりに一人になって少し動揺はしたがこれまでの経験値からかすぐさま今できる事を模索していった。この辺はやはり過酷な人生を送ってきたゆえのたくましさがある。
キン
ドサッ
獣が倒れるより先に美琴の刀が鞘に収まる音がした。獣は自分が死んだことさえ気づかずに
絶命していた。
「これで今晩のおかずはできたな」
美琴は手際よく獣をさばくと火をおこし暖をとる。そしてさばいた肉を焼きはじめ辺りに香
ばしい匂いがたちこめた。
「禅宗にさばきかたを教わっていて助かった!」
食事を終わらせた美琴は辺りを見渡す。
「腹が膨れたから後は…」
ガサッ
「誰だ!」
今度は人の気配がしたのですぐさま刀を構えた。
「ううっ…」
小さい子共が一人茂みから出てくる。
「おっ、おい大丈夫か?」
子供は倒れ込み気を失う。美琴は倒れた子供を抱え上げると息があるか確認をする。
「取りあえず死んではいないようだな」
グゥゥゥゥ
腹の虫が森に鳴り響く。
「もしかしてお腹が空いているのか?」
美琴は食べ残した肉を子供の鼻の前に持ってくる。目をカッと開かせると突然肉を掴むとか
ぶりついた。
「どうやら正解のようだな」
美琴は静かに微笑みながら子共の食事を見守る。まるでいつもの光景のようでつい可笑しく
なってしまった。
「お前、名前は?」
「ミヤ」
肉にかぶりつきながらも美琴の質問には素直に答える。
「ミヤ。お前は何でこんな所にいる?」
「分からない。気が付いたらこの森でさ迷っていた」
「親は?」
「小さい頃にどちらも死んだ」
「そうか…」
この時代のこの国ではどこにでもある話。そう言うのは簡単だが子供にとってそう簡単に割
り切れる話ではない。
「お姉ちゃんの名前は?」
「私か? 私の名前は美琴だ」
「ふ~ん」
ミヤは興味なさそうな顔をしてまた食事を再開させる。
ミヤの態度を見ていると孔士と重なって引っ叩きたくなるがどうにか抑える。接すれば
接するほど孔士と態度が似ている。どうやら精神年齢的には孔士はこの子供とどっこいのようだ。
「すぅ~」
ミヤは肉を掴んだまま寝てしまっている。緊張が解けて疲れが出てしまったのだろう。
「ぷっ。寝てしまっているな」
美琴もウトウトと眠気が襲いかかる。できるだけ多くの薪を火にくべると睡魔に負けて寝て
しまった。
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