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洋館
森の奥から不気味な笑い声と深い闇が美琴の後をつけていく。闇の周りからは動物たちの息
吹が消えていった。
鳥の飛び立つ音が森に鳴り響く。
美琴はミヤを引き連れながら森を歩き続ける。途中で魔物にも出くわしたが美琴はものともせずに一閃する。
美琴の刀を見るたびにミヤは目を輝かせた。
「お姉ちゃんは本当に強いね」
「そんな事ないぞ」
「だってこんなに魔物をやっつけている」
美琴は首を振った。
「私はあいつに比べたら全然弱いよ」
「あいつ?」
「そう。大して強くないのに無茶をしてボロボロで死にかけてそれでも立ち続けて前へと進
む奴だ」
「無茶…」
「人には無茶をするなとか言うくせに自分が一番無茶をする。そんな奴だ」
「お姉ちゃんはその人が心配なの?」
美琴の裾を握る。
「大事なの?」
「そうだな。大事だ」
「そうか。ならお姉ちゃんはその人が大好きなんだね」
「大好き?」
「うん。だから気になってほっとけないんでしょ?」
美琴はミヤの大好きという言葉がよく理解できずに戸惑う。
「よくわからないが大事なのは確かだな」
「いなくなったら寂しいのでしょう?」
「ああ…寂しいな」
かつて禅宗が生死不明になり美琴の前からいなくなった事があった。離れ離れになっている
時に美琴は禅宗がいない世界に絶望し塞ぎ込んでしまう。何とか孔士が奮起させたが美琴は
禅宗に依存している自分の弱さを自覚する事になる。
「ならお姉ちゃんはその人と一緒に居なきゃダメだよ」
「ミヤ?」
ミヤは満面の笑みで美琴の顔を見る。
「ああ…そうだな」
美琴はミヤの笑顔の意味を察する事はできなかった。
それから二人は手を繋ぎながら先へと歩き出した。美琴の手を強く握るミヤの手はとても冷
たく命の息吹を感じられなかった。
美琴は余りに冷たいミヤの手に違和感を覚えたがあえて気づかないふりをする。強く握って
くるミヤの手をどうしても振り払う気にはなれなかった。
美琴とミヤは何とか森を脱出しようと懸命に歩く。
「なんだあれは?」
茂みから脱出すると古い洋館が見えた。見るからに不気味で普段なら近づきたくもない所だ
がこの状況ではしょうがない。
「どうした?」
洋館に歩き出そうとしたがミヤが洋館に行こうとするのを拒む。
「お姉ちゃん」
悲しそうに美琴の顔を見る。
突然に雨が降り出す。さっきまで快晴だったはずだが奇妙な事に美琴達がいる辺りだけ雨雲
が立ちこめ雨を降り注いでいる。
「取りあえず中に入ろう。風を引く」
「…」
美琴はミヤの手を引っ張り洋館の中へと入っていく。
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