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ぼやく孔士
「何でこんな事に…」
無理矢理に森に連れて来られた孔士は禅宗の後ろでひたすらぼやいていた。
「お前なら大丈夫だ」
「何を根拠に言っているんだよ。禅」
無理やり連れてこられてずっと文句を言い続ける孔士。
「孔士そう言わないで下さい。貴方も美琴が心配ではないのですか?」
孔士は顔に手をやりながら天を見た。
「あの美琴がそう簡単に負けるとは思えないけどね」
「その通りだが万が一の可能性もある。それに
美琴は少し優しすぎる所があるからそこを
つかれればあるいは…」
付き合いが長いせいか容赦のない二人であった。
「縁起でもない事を言わないで下さい!」
ジャンヌの不安を煽ることばかり口走る二人に怒鳴りつける。
「まったくあなた達は美琴がか弱い女の子である事を忘れているのですか」
「か弱くはないでしょう」
以前美琴に殺されかけた経験がある孔士にしてみればジャンヌの発言は正気の沙汰ではない。
ジャンヌ自身も本気の美琴と戦ったことがあるが暴走していてどうやら記憶が混濁しているようだ。
「私が言っているのは美琴を少しは女の子扱いしなさいという事です!」
ジャンヌの意図をまったく酌もうとしない二人に再び雷が落ちる。
「そうは言ってもそれに関しては美琴にも不備があるよ」
「何ですかそれは?」
孔士はこれまでの美琴の暴走と引き起こしてきた騒動を包み隠さず説明した。孔士の言って
いることは事実ではあるがそれ以上に孔士が起こして来た騒動を思えば完全に人の事は言えない。
「はぁ~」
ジャンヌは顔に手をやり大地を見る。
さすがのジャンヌも呆れているのかと思えば
「そこを受け入れ笑い飛ばすのが素敵な殿方なのではないのですか」
「何だよそれ」
「まったくそれだからあなたはモテないのですよ」
「余計なお世話だよ」
むっとしたのか頬を膨らませて天を見る。
「孔士は子供ですね」
「アリスみたいなことを言うのは止めてくれる。せっかくあいつの罵倒を聞かなくていいの
にこれじゃぁいつもと変わらないよ」
「アリスが貴方を罵倒するのですか?」
「そうだよ」
ジャンヌはまたも自分に見せない最愛の妹の一面を聞かされ少し複雑になる。
「まぁほぼ百パーセント孔士が悪いに決まっていますが可愛い女の子に罵倒されてよかった
ですね」
「ちっとも良くない!」
少し先で黙って歩いていた禅宗は二人を黙らせる。
「二人とも静かに‼︎ 人の足跡だ」
地面に残されていた足跡を見つけるとそれを分析しだす。
「小さい子供と女性の足跡みたいだな。まだ新しい…」
「美琴かな?」
「でも何で子供と一緒なのですか」
ジャンヌと孔士は腕を組みながら頭をひねらせ考える。
「…この森に人は余り立ち入らないのか?」
「はい。ここは昔から恐ろしい噂話が多々あるのでまず地元の人間はここには立ち寄らない
ですね」
美琴と子供らしき足跡に違和感を感じる二人。
「そんな恐ろしい所に僕を無理矢理つれてきたの?」
孔士の疑問には誰も答える事はなかった。
「だとしたら美琴の足跡の可能性が高いな」
「聞けよ…」
「違う可能性もあります」
わざとらし無視するジャンヌ。
「お~い」
「そうかもしれないが闇雲に探すよりはましだろう」
「無視は最低だよ!」
孔士は不貞腐れて地面に座り込む。
「取りあえずはこの足跡を辿ろう」
「そうですね。では先に進みましょう」
禅宗とジャンヌは歩き出す。
「何している孔士。行くぞ」
「早く来ないと置いて行きますよ」
拗ねる孔士を無視して先を急ぐ。
「…お前ら」
あんまりな扱いに孔士は心底腹を立てるが
「もう少ししたら飯だから早くしろ」
「まったくしょうがないな」
ご飯に釣られて素直に歩き出す。
そんな孔士を見てほとほと呆れるジャンヌであったがこの単純な性格を少し羨ましいと感じ
ていた。
「孔士は昔からあんな感じなのですか?」
少し後を歩く孔士を見てジャンヌは尋ねる。
「孔士と出会ってまだ二・三年だがあんな感じだったんだろうな」
「同じ国の出身なのでしょう?」
「そうだが内乱の絶えない国だったからな、俺達も最初は敵同士だった」
「そ、そうなのですか?」
目を見開いて驚く。
「俺も孔士も美琴もみんな敵同士でバラバラだったからこうして異国に来ることになるなん
て夢にも思わなかったよ」
「何で一緒に旅をする事になったのですか?」
「話すと長いのだが分かりやすく言うと成り行きかな」
「要約し過ぎなのではないですか?」
「本当に長いしややこしいからまた今度な」
「しょうがありませんね。この話は次にしましょう」
ジャンヌは少し微笑むと孔士を見る。
「貴方達は本当に不思議ですね。がんじがらめに生きている自分が馬鹿らしくなります」
禅宗は目を細めると下を向き頭を掻いた。
「そうでもないさ。孔士はともかく出会ったばかりの美琴はずっと一人ぼっちでがんじがら
めに生きていたよ」
「天真爛漫な美琴でもそうだったのですね」
「今のジャンヌにそっくりだったよ」
「そうですか?」
禅宗は微笑みゆっくりと空を見上げる。
「一人で戦い全て抱え込もうとしていた」
「……」
「だがそれには限界がある。どんなに大きな力を持とうと異能の力を使おうと自分達は一人
の人間でしかない。けっして全知全能ではないんだ。」
「…はい」
聞こえるか聞こえないかのか細い声で返事をする。
「一人ではどうにもならない時もある。そんな時に助けてくれる応援してくれる仲間が周り
にいる事に美琴は気づいた。そうしたら美琴は一人では無くなったんだ」
「…私にもいるのでしょうか?」
「えっ?」
気恥ずかしそうに禅宗に尋ねる。
「私にもそんな仲間ができるのでしょうか?」
禅宗は笑いを堪える顔をする。
「何ですか? その顔は…」
不愉快そうな表情で禅宗を睨む。
「もういるよ。ジャンヌの周りには」
「はい?」
キョトンとした顔をするジャンヌ。
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