剣術指導と日常

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剣術指導と日常

「もっと背筋を伸ばせ。 まずは、かかとの上に腰、腰の上に胸、胸の上に頭、一直線に乗せろ。」 その言葉に目を閉じながら集中する。 「体の芯を意識して、腹に力入れて。 吸って、吐いて。 よし」 目を開くと、新太がこちらをみていた。 「その姿勢を日常生活でもできるだけ続けろ」 昨日、剣術を教えてくれと言ってから1日がたった。 変わったのは、俺が飛び掛からなくなったことと、その時間が剣術指南の時間に変わったことだ。 朝日がのぼり始めた河原は冷たい風が吹いていて清々しい。 分かったと頷くと新太は、持っていた木刀を一本こちらに投げて寄越した。 重い。 慌てて受け取ると、取り落としそうになるほど、腕に重さがかかる。 え、これは何だ。 いつも使っている木刀よりだいぶ重い。 「今日からその刀で素振りしろ、 真剣の時、安定してないの自分でも気づいてんだろ」 確かに父上の真剣を持った時、重くて切先が震える。 それにあんなに振り回しているのに、真剣はいまだ少し怖かった。 「それで練習して、片手でも軽く振れるようになれ」 試しにしっかり握って振ると、勢い余って腕が持っていかれる。 真剣よりも重いんじゃないのかこれ。 そんな俺の様子を見て、新太がふっと笑った。 こいつ今絶対バカにしただろ。 新太のほうを少し睨んでから、木刀に視線を戻す。 絶対にすぐこの木刀振れるようになってみせる。 「腕が持ってかれないようになったら、打ち合いしてやるよ」 そう言いながら新太は河原に緊張感もなく座り込んだ。 どうやら、後の時間は俺に素振りをしていろとのことらしい。 眠そうにぼーっとしているのが無性に苛ついて、重くて振りなれない木刀を手に飛びかかった。 俺の視線は気づいた時には宙を舞い、いつの間にか新太を見上げている。 俺の手を掴んで木刀の軌道をずらし、そのまま足蹴にされたのだ。 痛い。 俺は河原にみっともなく転がった。 「隙がありすぎだ、弥彦 悪いけど、俺は教えるの上手い方じゃないんだ 体で覚えろ」 新太は一歩も動いてないし、立ち上がってすらいない。 やはり敵わない。 悔しかった。 「絶対に強くなって殺してやる」 新太を睨みながら言うと、挑発するように笑われた。 「待っててやるよ、弥彦」 俺は、体の痛みを無視して立ち上がると、 さっき新太に教えてもらった立ち方を意識しながら木刀を振る。 やはり重くて体が少し持っていかれてしまう。 それに、数回振るだけで腕が痛い。 新太はそんな俺を見ながら、眠そうに、がんばれーと声をかけた。 絶対、その余裕そうな顔、壊してやるからな。
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