奇妙な二人暮らし

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奇妙な二人暮らし

朝、弥彦は鳥の声で目が覚めた。 どうやら、俺は生きていてどこかの薄暗い部屋に寝かされていたらしい。 昨日のことが思い出される。 てっきり死んだと思ったのに。 ザッと土を踏みしめる音と人がいる気配がしてそちらの方に顔を向ける。 まだ体は動きそうにない。 そこには土間があり、着流し姿の男が腰掛けていた。 その前にある戸から外に出ようとしていたらしい。 男は黒髪の長い癖っ毛を後ろで一つにまとめている。 横には鞘に入った刀が置いてあった。 「誰だ、お前」 弥彦がそう問うと男は気だるそうにこちらを振り向いた。 これから俺は殺されるのか、どこかに売られるのか。 早く状況を把握して、体が動くようになったら逃げなければ。 「お前、もう起きたの」 男は質問には答えず、冷めた目をしながらあくびをした。 男は強者だ。 だるそうにしているが隙がない。 今、弥彦の体が動いて向かっていったとしても、かすり傷一つ、つけられないだろう。 少しでも生きながらえようと、男を睨み体に力を入れる。 「父上や母上、兄上はどこだ」 なぜ自分だけがここに寝かされているのだ。 家族は皆生きているだろうか。 思い浮かぶのは最後に見た家族の姿だ。 倒れている父上と母上と兄上。 立っている男の刀にはギラつく赤錆色の血が蝋燭の明かりに反射していた。 「子供なのにそんな顔しちゃって」 そう言う男は少し悲しそうな顔をする。 なんなのだ、泣きたいのはこっちだ。 男は、板間に上がり俺の近くまで歩いてくる。 怖い、 俺は警戒をさらに強めて、動かない体を後ろに動かそうともがく。 依然、体は動きそうにないが、目だけはしっかりとその男を睨む。 「お前の家族は死んだ。」 男は俺の近くにしゃがむとなんの感情もない声で言った。 それが逆に自然で、ストンと頭に入ってくる。 男が言うことを全て鵜呑みにする訳ではないが、俺が1人でここにいる状況も、それが真実だと告げていた。 そうか、父上も母上も兄上も死んでしまったのか。 結局、武道も勉学も努力したものは何も見てもらえなかった。 父上も母上も、兄上の方だけ見てこちらを見てはくれなかったのだ。 「あれ、泣いてんの」 男が顔を覗き込んでくるが、その男の顔さえ涙で滲んで見えない。 うるさい、早く涙を止めてこいつをどうにかしないと。 そう思うのに、悔しいのか悲しいのかわからない涙が滲んでくる。 ちなみに、と男が続ける。 「俺が殺した、お前の父も母も、兄も。」 涙で滲んだ先に見えた男の目は暗く暗く沈んでいて、飲み込まれそうになる。 男は何を思っているのか分からない顔をしてしばらく俺を見た後、じゃあな、と言って土間におり外に出ていった。
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