奇妙な二人暮らし

7/9
前へ
/20ページ
次へ
「ほら、晩飯、食べるだろ」 新太は俺の方を向いて持って帰ってきたであろう包みを掲げた。 甘辛い、いい匂いがする。 「弥彦、お前、俺を殺そうとすんのはいいけど、飯炊とか洗濯とかしろよ」 飯の匂いに釣られて、包みに向けていた目を新太の方に向けると、当たり前だろと言われる。 というか、殺そうとするのはいいのか。 本当によくわからない男だ。 まあ、いい。 こいつの近くに暮らして、隙を見て必ず殺してやる。 「お、みつさんやさしー、ほら、食べるぞ」 俺が意気込んでいるのを横目に新太は流しに置いてあるおひつを覗き込んで嬉しそうな顔をする。 みつさんが置いていってくれたご飯だ。 新太は、茶碗ふたつにご飯をよそうと、俺と自分の前に置いて手を合わせる。 「いただきます」 新太が買ってきたのは魚の甘辛煮だった。 この男といるとなぜか気が抜けてしまう。 しっかりしなければ。 「早く食べろ、いらないならもらうぞ」 いつの間にか食べ始めていた新太が俺の前に置かれたおかずにまで箸を伸ばしていた。 「食べる!」 俺は急いで箸を持ちご飯と魚をかきこんだ。 腹が減っては戦はできぬ、だ。 その食いっぷりに新太が笑う気配がしたが反応しない。 食べなければ取られてしまう。 なんだって俺は仇の相手と飯を食べているんだ。 不思議な感じがしたが、俺以外の家族が話していて一人会話に入れない食卓よりは疎外感がなかった。 大人になったらどこかの藩にでも仕えて、仲のいいやつとこうして暮らすのも楽しいかもしれない。 夜通し起きて新太を襲おうと考えていたが、ご飯を食べ終わるとすぐに眠気が襲ってくる。 ずっと緊張していたからそのせいかもしれない。 「今日は皿洗っといてやるよ」 新太のその声とともに眠りに落ちた。 夜目が覚めると、新太が壁にもたれかかって刀を抱えながら寝ていた。 俺は布団に寝ていて、どうやら敷いて寝かせてくれたみたいだ。 この布団は今日みつさんが俺のために運び込んでくれたものだろう。 こいつ、いつも布団使って寝ていないのか? 横にすらなっていないし。 不思議に思うが、俺には関係ない。 静かに起き上がって、暗闇に慣れた目であたりを見回す。 あった父上の刀だ。 鞘に入れられて部屋の隅に置かれていた。 刀を手に取って新太の方を見る。 今は・・・いいか。 刀を静かに元の場所に戻すと布団に潜り込んだ。 なぜか、刀を抱えて横にすらならずに寝ている新太が悲しそうに見えたのだ。 明日、朝起きたらその時こそ、命を頂戴してやる。 朝、日が登って目が覚める。 弥彦は起き上がったその足で、刀の場所に向かった。 父上の刀を持ち上げて鞘から抜く。 きらりと光る刀身が現れた。 朝の薄暗い明かりをも反射している。 よし、やるぞ。 そのまま、新太に勢いをつけて飛びかかる がいとも簡単に止められた。 「だからこんな狭い部屋でそんなもの振り回すなって、 部屋に刀傷がついたらどうすんだよ」 やっぱりこの男は気にするところがおかしい。 自分の身より部屋の心配をしてどうする。 自分のことは傷つけられないという自信の表れかもしれないが。 しっかり握っていたはずなのに、刀を手から奪われ鞘に仕舞われる。 「ほら、米、炊くぞ」 新太は置いてあった元の場所に刀を戻すと俺を小突いてかまどの前に立たせる。 「米ってどうやって炊くんだ」 俺の言葉に新太は面倒くさそうにしながら、どこか楽しそうだった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加