追憶

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 思いも寄らない提案に、暫し唖然とする僕。……えっと、僕が先生のお宅へ? ……いったい、どうして――  だけど、そんな疑問はほどなく氷解した。退学した僕を心配してくれたのだろう、良かったら一緒に勉強をしないかというお話で。教える、ではなく一緒に、というところがこの先生(ひと)らしいなと思った。ほとんど何も知らないくせに、そんなことを思った。ただ、それはともあれ―― 『……えっと、良いん、ですか?』  そう、おそるおそる尋ねる。本当は、ご迷惑ではないか。担任の先生だから、仕方なく僕に手を差し伸べてくれいるだけではないか――そんな、放っておけばいつしか呑み込まれる負の渦が僕の頭をぐるぐる巡っていて。  だけど……それでも、そう口にした。どれだけご迷惑であろうとも……あの時の僕に、先生をおいて頼る……いや、縋る人なんていなかったから。すると、果たして彼は穏やかな微笑で頷いてくれた。
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