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ボクは、田中さん家の車です。ご主人さんと奥さんから『レガちゃん』と名前で呼んでもらってます。ちなみに車種はステーションワゴン。色は紺色のメタリック。恥ずかしながら結構皆さんから『カッコエエなぁ』と言われます。
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毎年春になると、ご主人さんから「黄砂で車ドロドロや。こないだ洗車機通したばっかりやのに…やっぱり色が紺やし、どうしても白っぽい汚れが目立つんやなぁ…まぁ、しゃーないんやけど」と言われてしまいます。でも、言われる度に何気に心が傷ついていたりします。
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今日もやっぱり黄砂でボクのからだは真っ白でドロドロ…。春は仕方がないけど、正直凹みます。外に出てるご主人さん、ボクを見ながら、横にいる奥さんに話し掛けてます。
「さっきテレビの天気予報で言ってたけど…今日の夜から結構きつい雨降るんやてー」
「ほんまにー…そしたら、レガちゃんのからだの汚れちょっと落ちて、キレイなるなぁ…」
「まぁ、きつい雨やったら…バケツひっくり返したみたいな雨やったら、めっちゃキレイになるやろうけど、中途半端な雨やったら余計汚ななるわ」
「まぁ…そうなるか…取りあえず雨降る前にレガちゃん、水玉模様にしてもいいかな?」
「水玉模様?」
「うん。からだに丸いっぱい描くねん」
「描くって…そんなアホなことしんといて。あと残るやん」
「あー…やっぱアカンか…」
がくっと項垂れる奥さん。
奥さん…それ…水玉模様、ボクも反対です。
ボクのからだ余計汚なくなります…。
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そして、その日の夜。日中ご主人さんが言っていた通り、雨が降り始めました。
ボクのからだに雨がポツッ、ポツッ…と緩い雨が当たり始めます。こんな雨じゃボクのからだキレイになりません。もっっっと沢山きつい雨…叩きつけるような雨じゃないと!叩きつけるような雨がからだに当たるのは正直痛いので嫌なんです。でも…ボクのからだキレイにならへんから、一生懸命耐えます!…いえ、耐えて見せます!…叩きつけるような雨、早くふりませんかね…。
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朝になりました。夜が明ける前に雨が上がって、ボクの上にはキレイな青空が広がっています。あの雨でボクのからだはキレイになったんでしょうか…?少しでもキレイになってたらいいんですが…。あっ、玄関の開く音が聞こえてきました。ご主人さんと奥さんですね…あっ、話し声と足音が二人分、お二人ですね…。あっ、ボクの横に来はりました…なんかどきどき…緊張します。
「あー…やっぱり」
ご主人さん…『やっぱり』って何ですか?
「うん…やっぱり…」
奥さん…『やっぱり』って何ですか?
「昨日の夜の雨、あんまり音聞こえへんかったしなぁ…」
「うん…」
「少しはキレイになったけど…やっぱりまだ汚ないなぁ…」
「うん…まぁなぁ…まぁ、しゃーないね…思った程雨降らへんかったし…」
えっ?奥さん、しゃーないんですか?ボクのからだ汚ないまんまなんですか…?がーーーん…ショックです…。
「オレ、あとでレガちゃんのごはん入れに行くついでに洗車機も通しとくわ」
「うん、わかった。ありがとう」
「たまには…」
あぁ…お二人の話し声と足音が遠ざかっていく…ボクのからだの汚れの確認しに来はっただけやったんですね…。ご期待に添えず申し訳ありませんでした。
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ご主人さん…たまには…一年に一回…ボクのからだを手洗いしてもらえませんか?
ボクが田中さん家に来た頃はよく手洗い…まめに手洗いしてくれはって、汚ないことがなかって、常にピカピカ…勿論春もピカピカでした…。シャワーで黄砂をキレイに流し落としてから…あぁ…あの頃のことを思い出したら、切なくなってきました。
黄砂の飛ばない季節…早く夏になってほしいものです。
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