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このお店だ。会社帰りにスマホの地図をチェックしながら、行きついたブティック路面店。
結人さんが用意してくれた洋服のタグから見つけたお店だ。オンラインショッピングはやってないようだから、実店舗に出向くしかなかった。高級ブランドのお店というわけではないけれど、根強いファンも多く、ここ5年くらいでかなり人気の出たブランドらしい。私は初めて知ったけど。
お店のドアを開けるときは、少しドキドキ。敷居がちょっと高そうな。でも、お店の中の空気感はそれほど高飛車ではなさそう。スタッフの「いらっしゃいませ」を聞きながら、店舗内を見渡す。この前のワンピースと似たようなテキスタイルを見つけた。早速、近寄ってみる。それは残念ながら、私が頂いたワンピースじゃなくて、セットアップだった。
「何かお探しのものがございますか?」
「この前、このデザインと同じワンピースを頂いて。ネットでお店があるのを知って」
「こちらの生地デザインは、うちのオリジナルで。柄違いのワンピースならこちらに」
スタッフさんの指さす方向に目を向けて近づく。ちらりとお値段を見たら、普通の会社員が普段着るようなお値段ではなかった。
「こちらはお洋服だけですか?」
「ランジェリーの会社さんとコラボした商品も奥にございますが。ご覧になりますか?」
どっちみち、お高そうなので、遠慮しようと思ったのに、なんとなく流されてランジェリーコーナーまでのぞくことに。紙袋に一緒に入っていて、見なかったことにした気合の入った、いわゆる勝負下着がキレイにディスプレイされている。
商品を見ているだけで、こちらが赤面しそうになる。攻めてるようなぁ。私にはご縁がなさそうだ。ふと気が付けば、さっきまで案内してくれていたスタッフさんが消えて、多分私より年齢が上だなと思われる、でもすごく魅力的なボディをお持ちの人が隣に立っていた。誰?雰囲気からして、オーナーかな?
「そのランジェリーは、女性がお買い上げになるだけじゃなく、男性がプレゼントとして贈られることもあります」
「そうなんですね」
多分さっきのスタッフさんより接客経験が豊富そうだ。もしかして私がワンピースを持っていると言ったから、お得意さんと勘違いされて、オーナーを呼んでくれたとか?
「この前のワンピース、お似合いになったでしょう?」
「えっと?」
「犬飼結仁さんからのプレゼントを選ばせていただいたのは私です」
ニコッと微笑まれた。瑠衣利とは全く違うタイプの美人。彼女がお人形さんみたいな美しさなら、こっちの方は女王様的な自分にゆるぎない自信を持っている感じの大人な女性。
どうやら彼女は私のことをご存知らしい。
「私には過ぎたプレゼントだったみたいなので、何かお返しをしようと思って」
「値段の確認にいらしたのね?」
その通りです。分かり易い客でスミマセン。で、あなたはどなたでしょう?
「私のことが気になって?」
私の考えていることって、そんなに顔に出るんだろうか。
「犬飼さんとお親しい方なんだろうなとは」
「それはジェラシーかしら?」
「それは全く。私はそういうんじゃないので。ご心配なく」
「あらそうなの?犬飼はあなたのことを大切な人って言ってたわよ」
犬飼?呼び捨て?
「それは多分、私が妹さんの友達だから。そういう意味の特別枠ってことじゃないですか?」
「妹の友達だからプレゼント?それはないでしょう。もしかして、あなたは脈なしなのかしら?」
ゴージャス系のこの方、ちょっと圧があるんですけど。
「多分、勘違いされてませんか?私は本当、そういうのじゃないので。犬飼さんとは雇用主と社員?もしくは飲み友達的な。だから安心して頂いて大丈夫です」
「もしかして、私が彼のガールフレンドの一人だと思ってる?」
「親しい女性の一人だとは」
そのスタッフさんは妖艶に微笑まれました。
「元妻にして、このお店のオーナー兼デザイナー」
「妻?オーナー?」
「元妻よ」
情報量が多すぎる。そうか、彼女になんとなく既視感があったのは、きっと結仁さんの結婚式の写真を見たことがあったからかもしれない。
あの時、瑠衣利は片っ端から、その結婚式の写真を破り捨てていた時だった。
「お時間はあるかしら?」
「えっ?」
「少しあなたとお話がしてみたくなったわ」
私は全くお話したくないんですけど。出来れば、このままバックレたい。
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