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プロローグ
「僕と結婚しないか」
「はい?なんで私と結仁さんが?」
この男、何を言い出すかと思えば。どこかで頭でも打ったのか?
「瑠衣利が美来ちゃんなら義姉になってもいいと言っていたから?」
疑問形で回答されても私は混乱するばかりだ。日本語で会話をしているはずなのに、どこか言葉の通じない人と話しているような気分になる。
「何それ?私のことバカにしていますか?結仁さん自身は私のこと好きでもなんでもないでしょう?」
「今はそうかもしれないが、いずれ」
なんだよ、その「いずれ」って。ちょっとだけ、ほんとちょっとだけドキドキしそうになった私がバカみたい。やっぱり結仁は結仁だ。
「じゃあ、お聞きしますけど、その『いずれ』っていつ?」
「いずれはいずれ?」
「そんなフワッとしたことを言われて、『はい』なんて言えるわけないでしょう?」
私の反論にやや狼狽えたこの自信家さんは、名を犬飼結仁という。私に拒否られるなんて想定外だったのか?どんな女性でも即OKと思い込んでいた節がある。
彼は私の高校時代の友人、犬飼瑠衣利の兄にして、グループ会社を何社持っているのかは知らないが、そのグループを統括する親会社の跡取り息子、所謂、御曹司的な存在で、バツイチだけど只今独身だったりする。
「昔の結婚なんて結婚式で初めて会うなんてことも珍しくなかったわけだし。それでも今よりずっと離婚率も低かったわけだよね」
「今は令和の時代ですよ?」
「美来ちゃんは僕では不満?」
「不満ですね」
直球で返してやりましたとも。
「どのあたりが?見た目も悪い方じゃないし、資産あるし、安定した職業にもついているし」
「一般的にはかなりの優良物件だと思いますよ」
「ではなんで?」
「まず第一にいまだにあなたは瑠衣利が好きだということ」
「それは否定しないけど、それは昔とは違ってきているし」
「第二に私のことを好きじゃないこと」
「嫌いではない。多分どっちかというと好きな方」
相変わらずぼんやりした回答をありがとう。少しでもときめきそうになっていた心が分かり易く冷めていく。
「その結仁さんの気持ちを承知した上で、結婚に夢も希望も抱いていない私がなぜあなたとわざわざ結婚しなきゃいけないんですか?」
「美来ちゃんを不倫の罠から救うため」
いちいち痛い所を突いてくる。
「余計なお世話です」
今度は私の方が狼狽える番だった。
「相手は離婚して美来ちゃんと結婚するとでも言っているの?」
私はいよいよ黙り込むしかなかった。そんなの、無理なことくらい知ってるし。
「だからって、私はあなたと結婚することはない」
そう言いきっていた。
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