ようちゃん

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 ワンピースのことがあったから、想像が出来ないわけじゃなかったけど、犬飼さんの家は想定以上にすごかった。家というより邸宅って感じ。むっちゃ庶民の私からすれば、犬飼宅は美術館かなんかですかと聞きたくなるようなお屋敷だった。  通されたリビングだけで私の家、全部の広さじゃないかと思えたのだけれど。これ盛ってないし。それにどうやらお手伝いさんがいるらしい。普通にいるものじゃないよね?そのお手伝いさんが出してくれた紅茶。カップも多分どっかのブランドものの食器に違いない。一体、これ合わせたら、いくらするんだろうと下世話なことを考える。 違う違う、今日はお家拝見に来たわけじゃなかった。 「犬飼さんは堀田紫央のことを知ってるんだよね?」 「同じクラスにはなったことないけれど、高校は出てしまった子よね?」 「ようちゃん、ううん、堀田さんの自殺未遂の原因を知りたいの」  私は聞きたいことを単刀直入に切り出していた。 「そのことを知っているなら・・・クラスは違うけど、C組の外山(とやま)さん分かるかしら?」  少しの沈黙の後、犬飼さんが切り出した。 「外山さん?4クラスあると全員の名前はまだ把握できてない」 「ウチのAクラスにも外山配下がいるのだけどね」 「もしかして花園さんたち?」 「察しがいいのね」  今回の犬飼さんの鞄をプールに沈めることを決行したのは花園さんたち。犬飼さん攻撃でクラス全体を呷っている首謀者は彼女だ。学校のトイレでコソコソ話しているのをたまたま聞いちゃったんだよね。そこで新参者の私がそんなことすべきじゃないと正義感をふりかざしたところで、今のクラスの雰囲気をもっと悪くするんじゃないかと何も言わなかった。言わなかったんじゃない、言えなかったが正しいか。知っていても何もしないって、花園さんの行為に同調したのと同じだし。  入学当初からクラスの女子生徒の中にあった違和感は、この花園グループと犬飼さんとの緊張関係のせいだということくらい、外部からの高校進学者のよそ者の私にも分かってはいたけれど。 「ちなみに花園さんは外山さんに指示されて動いただけだから。今回の本当の首謀者は外山さんなの。彼女はいつも誰かをターゲットにしてイジメてる」 「中学の時から?」 「そうね。最初は私のことも自分サイドに取り込もうとしていたみたいだけど、私、彼女とは合わなくて。クラスも一緒になったことなかったし、それはそれで丁度よかったのだけれど。彼女のターゲットになりたくない花園さんみたいな子たちが外山さんに取り入って、その手先になって動くようになってるみたい」 「中学の時からずっと続いているの?いつも外山さんが誰かをターゲットにしてイジメてるって言うのは?学校側は何も知らないの?」 「少なくとも中学までは学校側は静観してたわね。最近さすがに外山一派への監視の目があるようだけど。そもそもの始まりは堀田さんだったんじゃないかしら。堀田さん、外山さんのお気に入りだった男子生徒と仲良くなっちゃって、付き合うことになったから」  彼女たちが職員室によびだされたのは、もしかして監視の目によるものだったりする? 「外山さんが堀田さんをいじめるようになったのは、もしかして嫉妬だったりするの?」 「そういうことになるのかしら。外山さんは、その男子生徒に堀田さんのあることないこと嫌な噂を吹き込んで別れさせようとしたらしいの。それで結局、外山さんお思惑通り二人は別れることになっちゃったらしいの。それを堀田さんが外山さんにつめよって逆襲されたというか」 「それが原因でイジメに発展?」 「外山さんのやり方がちょっと陰湿だったみたい。私はクラスが違ったし、最初どんな噂を流したのかはよく知らないけれど。堀田さん、だんだん学校に来れなくなっちゃったみたいで。学校側もきちんと状況を把握しようとしなくて。外山さんのお母様が学校側を多額な寄付金をすることで丸め込んだらしいんだけど。結局、その男子生徒は転校しちゃったみたいだし、堀田さんも高校の内部進学をやめたみたいね」 「学校側はそれで一見落着させたの?」 「経緯をもう少し説明すると、男子生徒がまず転校して、それで堀田さんへのイジメが加速したらしくて」 「それって堀田さんが自殺未遂するぐらいのいじめだったってことでしょう?」 「その男子生徒の転校はお父様の仕事の都合だったはずなの。でも堀田さんからすれば、その男子生徒が転校したこともひっくるめて、いろいろショックが重なったのかもしれないわね」 「イジメの原因はその外山さんだったんでしょう?それなのに彼女にはお咎めなし?」 「そうね。学校側の対応も後手後手だったというか」 「堀田さんがいなくなった後は、その外山さんの現在のターゲットが犬飼さん?なんで?」 「理由はあったといえばあったのよ。彼女のお気に入りの先輩から私が告られたからかしら」  そんなあっけらかんと言われても。この人にはあまり危機感はないんだろうか。でも保健室にはちょくちょく行っているみたいだから、すこしずつボディーブローみたいに外山配下の花園さんのイジメが効いてきてるんじゃないのかな。 「もしかして筒香さんって堀田さんの敵討ちのためにウチの学校に入学してきたの?」 「そういうわけじゃないけど。ただ理由を知りたかったというのはあったかな」 「だとしたらイマドキ珍しい正義感ね」 「私はただ、彼女と連絡がとれなくなって、もしあの時、話を聞いてあげていたらって、結果を変えることが出来たのかなって」 「あなたがそれほど気にする必要はないのかも。堀田さんは外山さんに負けて高校を変わったわけじゃなさそうだったし。彼女、外部の高校に出る時、学校側とかなり交渉したと聞いたわ。表ざたにしない代わりに私たちよりレベルのいい関連校に優先的には入れるようにしてもらったとかなんとか、そんな噂を聞いたけれど。私が知っているのはこれくらいかしら。私には堀田さんがあなたと連絡をとらなくなった経緯までは分からないけれど」 「堀田さん本人が学校側と交渉したの?彼女は元気なの?」 「そんなこと私が知るわけないじゃない」  ついつい私は犬飼さんに詰め寄り過ぎていたらしい。 「ごめん」 「筒香さんってお人よしよね?」 「なんで?」 「原因究明のために友達の学校に高校から潜入したかと思ったら、自分がイジメのターゲットになる可能性もあるのに私の鞄をプールから拾い上げてくれたり。それもずぶ濡れになって」 「あれは脊髄反応に近い衝動的な行動だったから。べつに犬飼さんから助けたわけじゃない」 「欲のない言い方ね。私に恩を着せておけばいいのに。私、これでも結構、影響力あるんだから」  犬飼瑠衣利が不敵に笑っていた。
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