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飲み物のお替わりを用意してくると犬飼さんが席を外した時、入れ違いで兄の結仁さんが現れた。なぜすぐに分かったかと言うと、「こんにちわ、美来ちゃん」という彼の言葉のせいだった。だから今日はサングラスをしていないんだなっていう印象くらいしかもたなかった。確かにイケメン系なのかもしれないけれど、その時の私は恋に恋するJKという気分には全くなれなかったのだ。
彼はイケメンスマイルを私に向けてきたけど、ようちゃんのことを聞いた後では気持ちも盛り上がらない。それに私は「美来ちゃん」呼びに嫌悪感をもっていたから。そう呼ばれるの、あんまり好きじゃないんだけど。でもきちんとお礼は言っておこう。
「この前は送って頂いてありがとうございました」
「僕のことは分かるんだね?サングラスをしてなくても?」
「はい、この前も『美来ちゃん』と読んで頂いたので。車を運転して頂いたサングラスの人ですよね?」
犬飼さんから私のリアクションのことを聞いているんだろう。
「美来ちゃんが気にしている『ようちゃん』のことだけど」
「ようちゃん?」
彼から『ようちゃん』という名前が出てくるとは想定外だった。
「彼女は大丈夫だと思うよ、元気でやってるはずだから。個人情報だから詳細は教えてあげられないけど、どうしてもというなら連絡先も教えらえれるよ」
「なんであなたが?」
「僕の情報網、結構すごいの」
彼は再度私にイケメンスマイルを向けてきた。それ、私には効果ないんですけど。
「いじめっ子の外山さんのことはこちらも調べてあってね」
「外山さんを調べた?」
調べるってどういう意味?
「外山さんって、瑠衣利をイジメのターゲットにしている首謀者らしいからね。捨て置けないでしょ?」
彼はちょっと怖い顔をした。
「お兄さんは知ってるんですか?犬飼さんの学校での様子」
「瑠衣利の学校での様子が気になっていてね。最近、元気なかったし。調べてみると、なんか友達と上手くいってないみたいで。でもこれまでもそういうのはあったから、様子を見てたんだけど。この前のプール事件が起きたから、ちょっと深堀りすることにしたんだ」
「あれは私が勝手にプールに飛び込んだだけで」
「そういうことにしてあげてもいいんだけどね。外山さんのことを調べる過程で堀田さんの名前も出てきてね」
子の様子だと、この結仁さんはようちゃんのこともいろいろ分かっているらしい。
「美来ちゃんは堀田さんのこと、気に病む必要はないよ」
「そんなこと言われたところで」
「瑠衣利に美来ちゃんのことを聞いたら、堀田さんのイジメのことを知りたがっている同クラの女子だって言ってたからさ。一応お知らせしておこうと思って。瑠衣利を助けてくれたから、特別」
「特別?」
「あと外山さんたちは2学期になったらもう学校にはいないから」
「なんで?」
「素行不良につき退学にしてもよかったんだけど、まぁ穏便に転校っていうことになった。あの学校、面倒なことになりそうになると転校させるの好きみたいだからね」
私はようちゃんが元気だという嘘か本当か分からない情報になんかホッとして、外山さんのことたちなんてどうでもよかったのだけれど。
この結仁さんって、何なんだろう?可愛い妹をイジメた生徒を一掃させるくらいのシスコンとか?
夏休みが終わって学校に行くと、何人かの女子生徒がいなくなっていた。転校したという。それって、犬飼兄の結仁さんが言っていた通りになったわけで。
犬飼の家が学校にプレッシャーをかけたということ?もしそうなら、犬飼の学校への影響力が外山さんより大きいということ?なんかよくわかんらないけど、少し怖くなっていた。
犬飼瑠衣利の兄、犬飼結仁って何者なの?
「彼女たち、夏休み明けには転校することになる」
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