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離婚に伴う財産分割で、今まで暮らしていた家の売却が決まった。昨今の不動産動向のおかげかサクサクと予想以上の高価格帯で処分されることになり、即立ち退きを余儀なくされた私は、これを機に一人暮らしをすることになった。大学は国立に引っかかったから、授業料を抑えめに済む分を家賃に回せば両親にあまり負担をかけなくて済みそうだったから内心ほっとしていた。
そもそも父親は海外赴任から現地法人に転籍になっており、日本にいないし、すでに母ではないパートナーがいる。母は母で私が高校卒業まではと躊躇っていた転職を決行することにしたらしく、職場の関係もあって関西方面へ引っ越しが決まっていた。
一応私も18歳なので、単独で戸籍を作れるらしく、両親の間で右往左往するのも面倒で単独戸籍にしてしまった。うん、私って大人だわ。一人で生きていこうと気合をいれていた。
とはいえ、在学中の私の生活費と学費は、親が出してくれることで落ち着いた。ただ一人暮らしが決まったタイミングはすでにかなりの出遅れ状態で、いい物件はほとんど契約済。さてどうするかと思案していたら、とりあえず「ウチに住まない?」と声をかけてきてくれたのが、あの瑠衣利だったのだ。彼女の家の大きさは承知していたし、当面、犬飼の両親の海外居住が決まっているとかで自由度は高いらしい。家賃も格安、なんなら食事付にしてもいいという好条件。部屋の間取り図閲覧に疲れていた私は、とりあえずお世話になることにしてしまった。
犬飼側にも私を住まわせるメリットがあったらしい。犬飼の家は大きいとはいえ、年ごろの血のつながらない兄と妹が二人で暮らす。禁断の匂いが漂う状況というわけだ。犬飼両親はかなり気を揉んでいたらしい。兄の結仁に一人暮らしを推奨してみたりしてたらしけど、そうなると瑠衣利が一人になることも心配で。瑠衣利を一緒に連れて行こうとしたらしいけど、彼女は断固拒否。そこにタイミングよく私が家探ししているのを耳にしたわけだ。犬飼のお母様からは二人の様子をマンスリーで報告するという条件で、今回のお部屋提供が決まったわけだ。
「こんなに破格な好条件、他にあって?」
あまりにも瑠衣利の言う通りだったので、一抹の不安はありつつも同居させていただくことになりましたとも。
最初はどうなるものかと思っていたけど、私も一人暮らへの準備期間と割り切り、犬飼兄妹との同居を決めたのでした。犬飼家での暮らしはそこそこ快適で、ついつい2年もお世話になったのだけど。
結仁さんも瑠衣利も干渉してこないし、時間があえば朝食や夕食を一緒にとったりするけど、必須でもなくて。毎月食事の予定をお手伝いさんに知らせ、冷凍庫もしくは冷蔵庫に用意された食事をレンチンして頂くことも出来た。もちろん食事代は別途徴収。食事をする場所はダイニングでも部屋でもOK。私に割り当てられた部屋はゲストルーム仕様でトイレ・シャワー付きだから気を遣わなくて済むし。掃除は自分で。洗濯は空いていれば洗濯機を使っても良し、最近はコインランドリーもあるし。なかなか快適。ここに住まわせてもらう条件が良すぎて、ずっとここに住んじゃおうかと思ったくらいだった。
勿論私のマンスリータスクはきちんとこなしたし。私は犬飼のお母様に月1回二人の様子をメールで報告。必要以上に二人だけでいる時間がないか、双方の部屋に入り浸っていないか。不思議と二人はこのルールを頑なに守っていた気がするんだよね。コソコソと通いあったりもしていない。
それは高校時代から感じていたことだけど、二人はお互いをとても大切に思っていたからじゃないかって思う。好き合っている気持ちは絶対ある。でもその気持ちは表に出さないと決めているらしい。プラトニック。家族という形態を壊すつもりはないみたいだ。どうしてそこまでストイックになれるのか分からないけれど。だって、どう考えても好き合ってるよね。少なくとも瑠衣利は絶対。
でもそれは兄の結仁さんが大学卒業と同時に婚約をすることで一応の結末が出ることになるんだけど。。
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