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莉々の結婚式
莉々の背後にオーラが見えるのは私だけだろうか。
幸せな人って、やっぱり後光がさして見える、そんなことを思う。
莉々が気を使ってくれた私の披露宴のテーブルには、未婚の男性がチラホラ。一応、メイクもドレスも頑張ったからか、私を見る男性陣の目に優しさを感じるような。おかげで連絡先を交換する機会などもあったし。でも気持ちが今一つ盛り上がってこないんだよねぇ。それもそうか。
パウダリールームでメイクを直しながら、小さくため息をつく。違う違う、笑顔の練習をしなくちゃ。口角を上げて。でもさすがにぎこちないか。まだ、ちょっと無理だよね。だって、この前、不倫相手の上司の奥さんにとうとう会社に乗り込まれ、不倫が表ざたになったばかりなのだから。そのおかげで私は会社に居づらいといったらない。
これは辞めざるをえないかもと考えてみたものの、なんで私だけがという気持ちがないでもない。
男性側だって悪いよね?
それをついつい、この結婚式の2週間前に莉々に愚痴ってしまった。私って莉々以外に友達いなかったんだっけ?と後で反省したけど。そもそも、結婚式に私みたいのはふさわしくないんじゃないかって思えて、欠席にしてもらおうかと思って連絡したんだよね。なんか混乱してて。挙式前で忙しかったのにゴメンだったよね、莉々。
「心機一転、転職していい男でも探してみる?」
莉々は普通に励ましてくれたし。
「そんな都合よくいく?」
口ではそう言いながらも、転職サイトに登録している私。
テレビのCMみたいにスッゴイ会社から声かからないかなぁって妄想したところで、現実は厳しい。やっぱり女子は何やかんや言っても若い方がいいのかなぁと弱気になっていた。私って、もしかしてアラサーと呼ばれる年齢になってたのかと驚いたり、まだまだいけるはずと自分を励ましたり。
私だって人の噂も七十五日という諺を信じながら頑張って通勤しましたよ。でもなかなか根深いんだな、これが。会社での私は針の筵というより、剣山の筵かなって気分になってくる。
とはいえ、今日はせっかくのお祝いのハレの日。せめてあと3時間くらい頑張って笑ってみようと自分の頬を軽く両手で打って気合を入れる。笑顔をつくっていると、脳が勘違いして、本当にハッピーな気分になっていくって聞いたことがあるし。だまされろ、私の脳みそ。
それに結婚式は気分が上がるイベントだし。莉々の結婚式はシンプルだったけど、やっぱりいいもんだなって純粋に思う。素敵な大人の式って感じ。ライフイベントの大きなクライマックスの一つなんだろうな。私にもいつか、なんて、今はただの妄想だけど、そんな未来を信じてみたくなる。
披露宴の同じテーブルには大学の友達も数人いた。でも瑠衣利の姿はなかった。彼女とは、私が一人暮らしをするようになってからは、あまり連絡をとらなくなっていた。2年も犬飼家にお世話になったのにという申し訳なさはどこかにある。でも兄の結仁さんの結婚で分かり易く落ち込む彼女を正直、私は持て余してしまったのだ。私なりに励ましてみようと試みたけど、徒労に終わったし。私は彼女をどうしてあげることも出来なかった。
大学を卒業して、莉々と会うことはあっても、瑠衣利と会うことはなかった。それでも学生の頃は莉々も瑠衣利を誘ってみたりしていたらしいけど、彼女はついぞ現れなかった。いつの間にか留学してたし。それでもメールのやりとりくらいはしていた。うっすらと続く友情。でもその程度。
莉々が結婚式に瑠衣利を招待すると聞いたときは、彼女とちゃんと話せるか自信がなかった。でもそんな心配を吹き飛ばす報告を莉々から聞いて、私は心底驚くことになる。なんと彼女は留学したまま海外におり、妊娠中だというのだ。いつ結婚していたのか、相手は一体だれ?聞きたいことはいろいろあったのだけど、私が瑠衣利に送ったメールはスルーされたままだった。昔から彼女は筆まめな方ではなかったし、返信は彼女の気が向いたときという状況だったから、それほど気にしてなかったけど。嫌われてるのかなとちょっと心配にはなった。
瑠衣利から、さすがに莉々の結婚式への参加は無理だと連絡があったらしい。妊婦に長時間のフライトは難しいからと。出席できない代わりに動画が送られてきたという。初めて見る瑠衣利の柔らかい表情に、彼女は結仁さんとのことを乗り越えたんだなと確信した。旦那さんと手を振りながら一緒に並んで『Congraturations!!』とメッセージを送ってきた瑠衣利。それじゃなくてもお人形さんみたいにキレイなのに、広々としたリビングに溺愛ぶりを隠そうとしないダンディなご主人と並んでいる瑠衣利は異世界の王女様然としていた。彼女の旦那様はバツイチの一回り年上のかなりの資産家らしいよ、と莉々が後で教えてくれた。
私は私なりに、莉々の披露宴を頑張った。そのおかげか、莉々の結婚式で連絡先を交換した一人の男性に2次会に誘われた。人の良さそうな丁度、年頃も釣り合いそうな会社員。こういう人と最初から出会って恋に落ちることができていればよかったのに。せっかくだし、心のときめきは感じられないけれど、ご一緒することにした。私だって普通の恋愛をしたい。
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