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愛人じゃないです
「是非、面接をお願いしたいです」と結仁さんに即返信すると、これまた速やかに結仁さんから連絡が入り、あれよあれよと面接の日になっていた。
面接をしていただく会社は、犬飼家の経営する会社の関連会社らしい。これって、いわゆるコネ入社になるんだろうか。まぁ細かいことは気にせずに行こう。
会社は割とこぎれいなビルにあり、私は面接会場に向かった。
「いつから働けますか?」
「これから退職届を出すので1か月後には」
「ではその線で進めさせていただきます。詳細は担当から連絡が入りますので」
こんなにあっさりと決まっていいのだろうか。私を面接したのは、社長の四宮さんという人らしい。従業員20人程度、社長も30代半ばというところか。多分、四宮社長は結仁さんと年齢が近そうだなと思われた。鋭い目つきで私を見た後、関心がなさそうに書類、多分私の履歴書かな、に目を通している。これはもしかしてダメだったりするのかなと思われたのだけど、私は逆境の方が燃えるタイプ。負けじと自己紹介とこれまでの私のキャリアなどはきちんとプレゼン。ほとんどコネで決まっていた採用なのかもしれないけれど、やれることはやったおかげもあってか無事採用が決まった。
実は転職活動を始めてここ3か月。書類選考が通らなかったり、面接で落ちたり。予想以上にてこずっていた私は、こんなに早く、その場で内定が出るとは思っていなかったので拍子抜けしたくらいだった。
これは結仁さんにお礼を言わなければ。結仁さんだけじゃないか。莉々や瑠衣利にも。人のつながりは武器になるものなんだね。昔はコネってネガティブなイメージもあったけど、ここは人脈と割り切ろう。皆さまに感謝。
私は面接の会議室を後にした。ホッっとしてエレベーターを待っていたら、面接をしてくれた人物、社長の四宮依織が近づいてきた。「採用の件ですが、やっぱり無しで」って言われたらどうしようかと一抹の不安が頭をかすめたけど、きっと外出の予定があるとかじゃないって思い直して気持ちを強くもつ。軽く会釈し、次のエレベーターは彼を先行させて見送ろうと決めていた。
「最後に一つ聞いておきたいことが」
四宮社長からの質問に全身に警戒態勢の緊張感が走る。
「はい?」
「筒香さん、あなたは犬飼結仁の愛人かなにかですか?」
「へっ?」
声が裏返る。
「ご存知の通り、当社は犬飼の会社が大株主であることはご存知でしょう?」
「それは一応」
「コネで就職を希望される方が今までにも結構面接に来ました。その中には個人的に犬飼結仁と親しい女性たちも含まれます。そういう方々は極力、ご遠慮願ってきたのですが」
コネで就職を希望してきた人たちというのは、もしかして全て結仁の愛人だったりしたのだろうか?私もそれでカウントされてる?だからあんなにすんなり面接が終わったのか。でも次の展開が読めない。これは先に説明しておいた方がいいだろうか。
「そういう意味で言うなら、私は犬飼瑠衣利の友人枠ということになるかと思います」
ここまできたら開き直るしかない。
「瑠衣利さんの?」
どうやら、この四宮社長は瑠衣利のことを知っているらしい。
「高校時代の同級生でした」
「そうでしたか。失礼な言い方をしました。今までの方たちとは筒香さんはタイプが違ったので」
なんか、すっかり恐縮されている?スミマセンね、私が結仁さんの愛人枠から外れた見た目で。確かに彼の付き合う人はいつも分かり易く、女性らしい見た目の人だったから。
「でも同じようなものですけど。犬飼さんのコネを使ったのは事実ですから」
「コネは別にネガティブなものだけではないと思います。それを築いたのは本人の力だとも言えますからね」
「そう取って頂けるなら良かったです」
エレベーターがチンと到着を告げた。私は四宮社長にエレベーターを譲るべく1歩後ろに下がる。
「私は階段で行くので、どうぞ」
そう促され、私はエレベーターに乗り込んで彼の方に頭を下げた。彼の足元が方向を変えたのが見えた。それでも私はエレベーターの扉が閉まるまで頭を下げ続けた。
「私が結仁さんの愛人のわけないじゃない」
頭を上げた私は、一人エレベーターの中でそうつぶやいていた。
結仁さん、自分の愛人に就職口まで斡旋していたんだろうか。面倒見がいいというか、なんかかなり会社を私物化してませんか?しかし、その愛人たちって、どんな人だったんろう。まぁいいか。私には関係ないし。とりあえず内定ゲットにホッとしていた。
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