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転職のお礼
正式な内定をもらった私は結仁さんのスマホにお礼のメールを打ち込んで送信した。
間もなく、結仁さんから折り返しの電話を頂いてしまう。
「おめでとう」
「ありがとうございます?」
出来レースだったような気がしないでもないけど。
「実は美来ちゃんに一つ頼みがあって」
「頼み?」
「社長の四宮には会った?」
「四宮社長と面接しましたけど?」
「だったら話が早い。彼の動向を月1くらいで報告してくれないか?」
「えっと?」
結仁さんが私に転職口を紹介してくれたのはそういう裏があったからってこと?
「彼は実はウチの両親が瑠衣利の結婚相手にって目論んでいた相手で、彼もそのつもりだったと思う。でも彼女はまさかの留学先での電撃結婚で」
「ご破算になっちゃったと?」
「彼は娘婿という立場を手に入れられなくなったわけで。四宮自身もそこそこ瑠衣利のことも好いていてくれたらしくて」
「それで?」
瑠衣利の名前を出して、四宮社長がちょっと狼狽えた表情をしたのはそういう裏事情があったのか。
「実はね、ウチの極秘プロジェクトが外部に漏れたことがあって、四宮がその主犯だったのではないかと疑われてね。それで今の会社に出ることになったという経緯があったんだよ」
「それって四宮社長から犬飼家へのリベンジという危惧があるっていうこと?」
「その可能性も捨てきれなくて、ちょっと監視の目が必要なんじゃないかと。ちなみにプロジェクト情報をリークさせたのは四宮とは別人だったんだけどね」
「それって私に四宮社長のスパイをしろって言ってるように聞こえますけど?」
「大したことじゃないんだ。ちょっと美来ちゃんが気になったことを知らせて欲しいぐらいの程度だから」
成程、そういうことかと納得していた。だよね、結仁さんが私なんかのために就職先を斡旋するような労をとるはずがないと思っていたから、意外だったんだよなぁ、今回のこと。
はいはい、そういうことね。かえって、納得だわ。
「こういうことをさせるのって、私が初めてじゃないですよね?」
「どういう意味ですか?」
四宮社長が言ってたことが過る。
「私より前にも結仁さんの愛人があの会社に転職しようとしてきたと聞きました」
「バレてました?」
「余裕で」
「最初のうちは上手く送り込めてたんだけど、途中から面接厳しくなっちゃって。やっと入社させても、次から次へと四宮に絆されて」
「絆されて?それって、四宮社長にせっかく結仁が送り込んだ愛人たちが惚れちゃったってことですか?」
「まぁ、そんな感じ。だから美来ちゃんも気を付けて」
ミイラ取りがミイラっていうパターンか。四宮社長、モテるんだな。
「余計な心配ですよね?そうならないことが分かってたから、今回は私を送り込もうとしたんじゃないですか?」
「それもあるかな。でも美来ちゃん、不倫相手と別れたばかりって聞いたから、逆にそっち方面は慎重になってるだろうから大丈夫かなって。結構ガード固いところあるから」
「それって全くの余計なお世話です」
私は電話をぶちぎってやりました。
でも就職口を紹介してくれた恩があるのは事実だし。社長のことを嗅ぎまわれと言われているわけじゃないから、気付いたことを報告するくらいならセーフっていうことにしようか。相変わらず、結仁さんは読みにくい人だ。
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