神山さん

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 四宮社長は本当によく働く。多分、知識も広く深いし勉強熱心。犬飼の両親が瑠衣利の婿候補にしたくなるのも十分理解できる。  ちょっと冷たい印象を与えるけれど、ここは結仁さんとは真逆だな、一応気遣いは出来る人らしい。  私はそんな四宮社長の印象も含めて、マンスリーリポートを結仁さんに提出している。結仁さんからも、瑠衣利が四宮社長のことを自分の婿候補としてそれほど嫌がっていなかった相手だと聞いていたので納得だ。  瑠衣利が留学先でいきなり結婚を決めたことには驚いたけれど、四宮社長はどう思ったんだろう?ショックだったんじゃないだろうか。一応、正式ではないいんしろ婚約者的なポジションだったんだよね?まぁ余計なお世話だけど。  今回、私がレポートを結仁さんに送ったら、珍しく電話がかかってきた。「取引先との食事のキャンセルが出たから、お礼ついでに食事でもどう?」  結仁さんからのお誘いなんて、普通ならお断りするところ。でも結仁さんが挙げてきたレストラン名が、この前の会議で名前の出ていたそれだったので、ここは社会勉強がてら行ってみようという気になっていた。 「さすがに、行ってみたくなったでしょう?」 「確かに」 「じゃあ現地集合でいいかな?」  電話を切ると、間もなくレストランの情報が送られてくる。相変わらず仕事速いなぁ。そこは感心する。  約束の時間にちょっと早めに着いたのに、既に結仁さんは席についていた。てっきり遅れてくる系の人だと思っていたのに。ちょっと意外。 「僕は人を待たせない主義なんだよ」 「そうなんですね」  私の表情を読み切った結仁さんに先回りして言われてしまった。 「四宮は変わりないみたいだね」 「別に変ったところはありませんよ。会社のために身を粉にして働いている感じ。実績があるので、社員からの信頼もありますし、専制的とか独断的ってことはなさそうで、合理的ですね。ただ頭のいい方なので、周囲がたまに置いて行かれている時があるような気はしますが」 「辛口の美来ちゃんからの誉め言葉、珍しいなぁ」  どういう印象を私に持っているんだ、この人は。 「私は他人に対して辛口の批評などした覚えはありませんが」 「じゃあ言い方を変えます。他人に対して無関心っていうのが適切かな。特に僕とか?」 「どうとっていただいてもいいですけど」 「相変わらずの塩対応」  この人タラシの優し気な笑顔に何人の女性が泣いてきたんだろう。 「このレストランはシンガポールで有名なレストランとライセンス契約をしていてね」 「ライセンス契約?」 「それを更新するか、新たなコンセプトの店に変更するか検討中なんだよ。集客も落ちてきているみたいだし」  なるほど。それでこの前の会議に名前が出てたのか。  ここのメニューはアジアンレストランにありがちなものが多く、目新しさはない。予想を裏切らない味かな。一方で内装はエキゾチックなインテリアではなく、ちょっと高級感がある。開店当時は予約が取りにくいと言われていたらしいけど、今日は平日のせいもあるのか、満席とはいっていないようだ。 「顧客単価を上げる予定があると聞きましたが?」 「まぁね、ちょっと気になっている新規との交渉を始めないかと今度、四宮に相談してみようかと思っていて」 「なるほど」 「近いうちに一度現地も見てきてもらおうかと」 「また海外出張とかになるんですか?多分、四宮社長のスケジュールかなりタイトですよ」 「まぁそこはどうにでもするでしょう?」  神山さん、また苦労しそうだなぁと他人事とはいえ、気の毒に思えてくる。 「ついでに美来ちゃんも同行するっていうのは?」 「なんで?他に適任な方がいますって。さすがに遠慮します」 「即答なんだ?四宮との仲を深められるチャンスなのに?」 「私が深めてどうするんですか?」 「それもそうか」  この人、たまに何を考えてるんだろうって思う時がある。だいたい海外出張って、移動で週末がつぶれることもあるのに、出張手当が週末分は出ないとか、いろいろ疲れることも多いと聞いたし。節電モードの私には過ぎたるお仕事です。海外に行くならバカンスで。っていうか、海外でバカンスなんて過ごしたことあったっけ?そう言えば、一度だけ海外で暮らす父のところに遊びに行ったことがあったなぁと思い出す。あれは中学の時で。あんまりいい思い出じゃなかった。忘れよう。
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